本年度は、ウィリアム・モリスの異教趣味が、彼の中世主義思想においてどのような役割を果たしていたのかについて中心的に検討した。2019年はジョン・ラスキンの生誕200年の記念年ということもあり、日本においても関連展覧会等が開催されたが、ラスキンとモリスの大きな違いを生んだ一つの大きな要因として、いわゆる異教趣味、具体的には北方への憧憬を看過することはできない。北方神話がモリスを含むヴィクトリア人たちにおよぼした影響を明らかにすることをつうじて、モリスの中世観の特徴をあきらかにし、それをもとに、モリス自身の詩ないしロマンス作品の制作活動、社会主義活動、芸術活動をつらぬく統合的な思想としての中世主義の実態をとらえることを試みた。 成果としては、2018年6月に東北大学(仙台市・日本)で行われた国際比較神話学会(International Association for Comparative Mythology)第12回大会での研究発表を行うとともに、同発表をもとに大きく加筆修正をほどこした論文、The Past Illuminated by the Grey Light: A Study on the Influence of Benjamin Thorpe's Northern Mythology on William Morris(『神話研究』13-22頁)を刊行した。今後の研究活動への発展を期して、同論文はグローバルな研究者が参加するSNSであるAcademia.edu上で閲覧可能な状態としており、一定数の閲覧が記録されている。
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