研究課題/領域番号 |
26770102
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
関 良子 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (10570624)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 英米文学 / 文学論 / 詩学 / ヴィクトリアニズム / 懐古主義 / 中世主義 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀英詩および詩論に見られる同時代主義(Victorianism)と懐古主義(antiquarianism)の対立を吟味し、[1] 当時の詩人・思想家が共通にもっていた認識の所在、[2] 両立場の対立の根源、[3] この対立・相克によって生まれた効果を解明することにある。 初年度である本年度は、当初の計画に沿って以下の手順で研究を行なった。まず、本研究のキー概念である「同時代主義」と「懐古主義」においてアンビヴァレントな立場をとっていたマシュー・アーノルドに関して、彼の思想と詩作品の両方を分析した。その結果、詩人としては中世主義者あるいは懐古主義者と捉えられる傾向にある彼の思想の中に、同時代主義的な要素が多く含まれていること、とりわけ散文エッセイにおいてその傾向が強く見られることが判明した。特に、彼の散文執筆家・文芸批評家としての最初期の論考である「ホメロス翻訳について」(On Translating Homer)に注目し、彼が古典詩を六歩格の韻律で翻訳するよう主張したのが、一見すると古典叙事詩のリズムに立ち戻るよう主張しているようだが、実際にはロマン派からの離脱、ヴィクトリア朝詩学の確立を目指す同時代主義的営為でもあったことを解明した。(これに関する論考は、来年度刊行予定である) 第二の収穫は、10月にアメリカ・ジョージア工科大学で行なわれた中世主義学会の第29回国際大会に出席し、中世主義の最新の研究動向に触れると同時に、海外の研究者らと本研究課題について議論することができた点にある。第三に、本研究課題に関連する単著The Rhetoric of Retelling Old Romancesを本年度末に上梓できたことが挙げられる。この出版をきっかけに、国内外の研究者と本研究課題について議論する機会がさらに増えた。これらの議論をもとにした成果については、来年度以降にさらに考察を深めたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の最大の研究成果としては、単著The Rhetoric of Retelling Old Romancesを上梓したことが挙げられる。本書は、本研究課題の着想にいたる萌芽的な研究であり、これを英文で発表し国内外に発信できたことは、今後の本研究の取り組みのためにも非常に有意義なことであったと言える。 また、本年度、特に重点的に研究する計画であったマシュー・アーノルドの詩作・詩学についての論考を、年度中にまとめることができたのも大きな研究成果であると言える。本論考は、来年度出版予定の阪大英文学会叢書第8号に掲載される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、本年度に計画していた研究内容に関しては、おおむね順調に成果を発表することができたため、次年度には、ウォルター・ペイターを主な研究対象とし、さらに懐古主義(antiquarianism)の定義づけ、その実態の解明に向けて研究を進めたいと考えている。本年度は学会参加のための出張のみで、現地における文献・資料調査ができなかったが、さらに基礎調査を国内で進めた上で、次年度以降に現地調査を行なうべく準備を進めたい。
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