最終年度である本年度の主な研究成果として、以下二つが挙げられる。 一つは、第13回日本英文学会関西支部大会で行った研究発表「歴史言説からの19世紀中世主義の再理解」である。この発表では、昨年度後半から取り組んでいたHeyden WhiteのMetahistory: The Historical Imagination in Nineteenth-Century Europe (1973)の精読によって発見した事項をもとに、19世紀イギリス詩人らの懐古主義的な詩と19世紀大陸ヨーロッパの歴史家らのhistoriography(史料編集)を比較検証した。その結果、19世紀詩人らが歴史的なモチーフを題材にするとき、彼らが描いた物語世界は当時の歴史家らの歴史記述と共通するところがあり、両者ともに同時代の社会への問題意識を有していたことが明らかとなった。中世主義はこれまで、歴史文脈から切り離すところから議論が始まっていたために、歴史言説の中で議論されることがなかったため、本研究発表で中世主義研究に新たな光を当てることができたかと思う。 本研究課題の成果の中核は、上記研究発表で報告することができたが、その後、2019年5月に開かれる第91回日本英文学会全国大会のシンポジウムでの発表の機会が与えられたため、本年度終盤より、本研究の延長線でウィリアム・モリスの中世主義的な詩に関する研究を始めた。具体的にはLove Is Enoughという劇詩を分析し、モリスが詩の聴覚的・視覚的効果を駆使して中世世界の再現を試みており、また単に懐古的に再現するだけでなく、彼の後期の社会運動にも繋がるような、同時代的な意識をもって取り組んでいることを突き止めた。この研究内容に関しては、2月末に東京で開かれたシンポジウムの打合せを兼ねた研究会で発表した。正式な研究報告は5月の学会シンポジウムで行う予定である。
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