平成29年度は、平成28年度に引き続き編集者としてのオスカー・ワイルドに注目し、彼と関わりのあったある女性作家について、人物特定作業をより正確なものにするべく調査を行いつつ、ここ数年取り組んできた成果を形にすることに注力した。 これまであまり注目されてこなかったテクストを服装・室内装飾という観点から分析しなおすという作業は平成28年度も行っていたが、平成29年度はその作業を発展させつつ、これまで収集した資料を参照しながら論文の執筆を進めた。平成29年度も関連資料の収集は続け、テクストのより精緻な解釈および対象テクストの背景へのさらなる理解も目指した。 一方で対象テクストの作者特定についても、さらなる証拠を求めて調査を進めた。調査を進めるにしたがい、作者と思われる人物と当時の英国唯美主義との関わりも明らかになってきた。執筆作業は継続中であるが、英国唯美主義を研究するうえで、こうした人物の重要性を再確認することは意義あることと信じ、論文としてまとめていきたい。 なお本課題研究期間全体を振り返ると、計画に修正が必要になった点もあった一方、当初計画していた、唯美主義研究の系譜の中でワイルドおよび彼と同時代の女性作家たちを再評価するという大枠の方向性からは外れることなく、研究を進めてこられたと考える。具体的には、研究期間前半にはワイルドのテクストにおける服装・室内装飾に注目し、そのうえで後半には彼と関わりのあった女性作家によるテクストを同様の視点から考察することで、それぞれのテクストへの新たな解釈や対象テクストの意義の問い直しを試みるだけでなく、ワイルドと〈女性唯美主義者〉との関わりといった点にも思考を広げることができた。
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