本研究の目的は、19世紀後期アメリカ文学者、特にルイーザ・メイ・オルコットのスクラップブック、ならびに文学テクストに描かれたスクラップ帳の表象をとおして、同時代アメリカ社会に対する彼らの意識を追究することにあった。本研究期間全体を通し、筆者はシンポジウム2件と公開講座1件の発表を行い、論文4本を執筆した。その中で、印刷技術や交通網の発達にともない印刷物が大量生産・消費され始めた当時、近代ヨーロッパ文学、ひいては古典の伝統が底流にあることを意識しつつ、そのような知的遺産と新たな繋がりを模索する知のあり方として、オルコットがスクラップブックを用いていることを論じた。 最終年度の研究実績は以下の通りである。 第1に、平成28年6月12日、中・四国アメリカ文学会第45回大会シンポジウム「アメリカ文学の独立」において、「オルコットの短篇小説と新しいアメリカの教養」の報告を行った。その内容を「屑を拾う少年――ルイーザ・メイ・オルコットの短篇小説と新しいアメリカの教養」という題目で共著『知のコミュニティ』(平成30年度出版決定)に寄稿した。 第2に、オルコットがスクラップブックを家族に公開していたことに付随して、論文“Modernity of Louisa May Alcott’s Unpublished Manuscript ‘Pogram’s Lay-vice’”を執筆し、共著Thoreau in the 21st Century: Japanese Perspectivesに寄稿した(平成29年度出版決定)。本論文では、複数人が寄り集まることで想像力を喚起していく作家の文芸創作上のメカニズムを明らかにした。 最後に、平成29年5月20日、日本ナサニエル・ホーソーン協会第36回全国大会シンポジウムにおいて「ルイーザ・メイ・オルコットのスクラップブック」のタイトルで報告を行う。
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