研究実績の概要 |
今年度は当研究課題への取り組み最終年度ということもあり、これまで二年間の研究成果を発表し、論文として纏めることを目標とした。発表としては以下の2点を行った。まず昨年度、 中四国アメリカ学会で発表した原稿を大幅に加筆修正し、米アイダホ大学で開催されたASLE Biennial Conferenceのパネルの1つ “Oranges, Peaches: Japanese-American Environmental Literatures”にて発表した。"Hidden Messages in Food: Representation of the Peach in Japanese American Literature"という題目で日本の桃の文化的な意味を捉えながら、MasumotoとOzekiが描く桃に作家のエスニシティが描出されていることと、アメリカのフードシステムを支配する側への抵抗として桃が効果的に描かれていることを述べた。本発表により同学会でTravel Awardを受賞するなど評価を得ることができた。次に中四国アメリカ文学会冬季大会で、もともとTV番組の制作者であったOzekiが食肉問題を何故メディアではなく小説を通して提示したか考察しながら、小説でメディアを描く意味を探る発表「食に潜むリスクの伝え方―Ruth L.OzekiのMy Year of Meats(1998)におけるメディアを再考する」を行った。 論文としては次の1点を執筆した。ASLEでの発表した原稿を改稿した「現代の日系アメリカ文学に見る農業の風景―マスモトとオゼキが描く桃の象徴性をめぐて―」を『変容するアメリカの今』(2015年12月、大阪教育出版)に掲載することができた。 さらに日系カナダ人作家Hiromi Gotoを招聘し、いくつかの学会や大学で講演をしていただいた。特にエコクリティシズム研究学会では、Goto氏の独自の視点で食と女性の身体との結びつきや、生き物や環境との関わり等について語っていただいた。この講演やGoto氏との議論を通して、エコロジカルな視点からの日系文学研究において、作家のセクシュアリティの問題への意識を探ることの必要性を見出した。
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