研究課題/領域番号 |
26770115
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
北原 寛子 小樽商科大学, 言語センター, 客員研究員 (60382016)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / Bildungsroman / ヘーゲル『美学講義』 / 小説理論 / 市民的叙事詩 / ディルタイ / フライターク |
研究実績の概要 |
従来の研究では、18世紀に盛んであった人間の人格陶冶Bildungの思想が小説に反映したものとして単純にとらえていた。しかし申請者がそれまで行ってきた研究の成果と合わせて初年度の研究からは、この概念がそうした単純な結びつきによって成立したのではなく、さまざまな小説にまつわる言説が徐々に統合され、理論化していくなかで形成されたことが明らかとなった。そして2年目に当たる平成27年度の成果は、この18世紀の小説理論が19世紀にどのように展開したのかを、ヘーゲルの『美学講義』における小説理論を軸に分析したことである。「ディルタイのヘーゲル小説理論受容―19世紀におけるBildungsroman概念展開についての一考察―」においては、まずヘーゲルの小説理論がディルタイに影響を与えていることを、両者のテクストの対応個所に記号を付して具体的に比較することで明らかにした。従来の研究では、ディルタイのBildungsroman理論のオリジナリティーが強調されており、ヘーゲルからの影響についてほとんど言及されてこなかったため、ヘーゲルの「小説」理論(小説についての一般論)がディルタイのBildungsroman(という小説の中の特殊なジャンル)を定義する際の原形になっていることを確認できた意義は大きいといえる。この分析結果は、Bildungsroman概念で頻繁に想起される人格の理想的な完全性は、実際の作品から分析的に引き出されたのではなく、テクストを継承する際に言い換えによって生み出されたイメージであるという申請者の予測を裏付ける証拠となった。そしてさらに第二の論文「当世風騎士道物語として読む近代小説―フライターク『貸しと借り』における「市民」の表象―」においては、ヘーゲルの小説理論が理論以外にも19世紀の小説にどのような影響を与えているのかを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの本研究課題は、Bildungsroman概念の成立と展開を確認することであるが、この過程の軸となるのがヘーゲルの『美学講義』における小説理論である。初年度は、近代小説理論黎明期にあたる18世紀初頭からヘーゲルに至るまでの過程を確認できた。2年目に当たる平成27年度はヘーゲルのテクストとその直近の継承者ディルタイの理論を分析し、さらにその実際的応用編としてフライタークによる『貸しと借り』(1851)を小説理論の観点から考察した。このようにBildungsroman概念展開の本筋については、当初の目的通りに分析を進めることができている。大幅な進展とみなすことができない理由は、19世紀に広がっていったBildungsroman以外の小説理論の流れにまで考察対象に含めることができていないからである。確かにBildungsroman概念は18世紀から現在まで継承されてきた言説によって構成され、いわば伝統的な立場ではあるが、19世紀にはすでにベルネなど「若きドイツ」の作家たちが別の傾向を生み出していた。これから20世紀の状況を考察するにあたって、19世紀の状況もさかのぼって検討することも視野に入れていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度にあたる本年は、20世紀にBildungsroman概念がどのように展開していったのかを分析することを目標としている。18世紀の小説理論がヘーゲルに集約され、そこからディルタイがBildungsromanという概念を展開したが、これがさらにルカーチの『小説の理論』によって近代ドイツの小説理論の王道へと引き上げられていく過程を分析する。それと同時にこの概念が、18世紀の小説の実像からも、同時代20世紀の実態からも乖離し、理想化され、文化的な理念へと転換する過程についても考察していきたい。ルカーチのテクストを研究の中心とするにあたって、エリアス、ジンメル、グンドルフ、ベンヤミンらとの影響関係も視野に入れ、Bildungsroman概念が20世紀初頭のイデオロギーとして果たした役割を研究していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書の購入を予定していたが、他の図書館の蔵書利用などで対応でき、その分の支出を抑えることができたため、本年度の研究費が余ることになった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究を進展させるために、図書を購入する予定である。また他の研究者と意見交換を行うための旅費や、資料整理のための物品費の購入に充てる予定である。
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