従来一般にビルドゥンクスロマンBildungsroman(=「教養小説」)は、18世紀後半の若者によって自己の内面と社会の現実の葛藤を小説へと昇華させたジャンルと説明されていた。しかしこれはディルタイがヘーゲル美学を解釈して作り出したイメージであり、文学史的事実と合致しない。ヘーゲル美学における小説理論は18世紀の議論を継承しているが、それはバロックに始まりロマン派で終わる100年の大きな変化を反映している。ディルタイはヘーゲルを経由して伝承されてきた18世紀以来の小説理論をBildungsromanと命名したのである。
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