研究課題/領域番号 |
26770116
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
中里 まき子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (40455754)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジャンヌ・ダルク / シャルル・ペギー / ジョルジュ・ベルナノス / 国際研究者交流 / フランス |
研究実績の概要 |
1840年代にジュール・キシュラがジャンヌ・ダルク処刑裁判記録校訂版を刊行したことにより、この少女の表象は、伝説の領域から歴史的現実の領域へと導き出された。それでも、文学作品に描かれるジャンヌ・ダルク像は多様なものであり続けた。とりわけ彼女の言語については、対極的な二つの解釈がなされた。20世紀の多数の作家(コクトー、ブレッソン、デルテイユ等)が、裁判記録に響き渡る彼女の声に魅せられたのに対し、ジョルジュ・ベルナノスは、法廷で裁かれるジャンヌを寡黙な少女として描き、彼女の雄弁さを強調する他の作家たちの傾向を疑問視した。この二つの人物像(能弁なジャンヌと寡黙なジャンヌ)の原型を、シャルル・ペギーの文学テクストに見出すことができる。今年度は、下記の方法で、ジャンヌ・ダルクをめぐるペギーの文学創作を検討した。 まず、『ジャンヌ・ダルク三幕劇』(1897)の構造や展開、台詞に、ソフォクレス『アンティゴネ』の模倣が見られること、特にジャンヌ・ダルクの人物像が、アンティゴネの影響で、裁判記録から伝わるジャンヌ像以上に雄弁かつ論争的になっていることを検証した。続いて、『第二徳の神秘の大門』(1911)と『聖なる嬰児たちの神秘劇』(1912)におけるジャンヌの沈黙が、両作品において主題化される沈黙(夜の沈黙、神の沈黙、イエスの沈黙、聖嬰児たちの沈黙)と響き合っていることを確認した。その上で、『われらの青春』(1910)を参照することにより、ペギーの文学作品におけるジャンヌの「声」と「沈黙」が、それぞれに、この作家の言語観を映し出していることを明らかにした。こうした研究の成果を、ペギー没後百年を記念してスリジー・ラ・サル文化研究センターで開催された国際シンポジウムにおいて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シャルル・ペギーによる対極的な二つのジャンヌ・ダルク解釈について、『われらの青春』に示される作家の言語観と関連付けながら解明することができた。その成果を、スリジー・ラ・サル文化研究センターでの国際シンポジウム「シャルル・ペギーの声:現代に響くこだま」において発表し、多数の研究者と交流する機会を得た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究対象であるペギーの作品群に照らしてベルナノスの複数の小説を読み解くことにより、ジャンヌ・ダルクの表象をめぐる葛藤が、ベルナノスを、20世紀文学に顕著な逆説的なエクリチュール(書くことへの躊躇や拒否が刻印されたエクリチュール)の実践へと導いたことを論証し、その実践の意義を探る。特に、『欺瞞』と『歓び』を検討対象とする。 上記の研究のためにフランス国立図書館等において文献収集を行う。また、研究協力者のエリック・ブノワ教授(ボルドー・モンテーニュ大学)と、平成28年度に開催する国際シンポジウムに向けた打合せをするため、ボルドーを訪れる予定である。
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