文学作品に描かれるジャンヌ・ダルク像は多様なものであり、特に彼女の言語については、対極的な二つの解釈がなされた。20世紀の多数の作家(コクトー、ブレッソン、デルテイユ等)が処刑裁判記録におけるジャンヌの言葉に魅せられたのに対し、シャルル・ペギーとジョルジュ・ベルナノスは少女の沈黙に心を寄せた。今年度は、ベルナノスのジャンヌ・ダルク解釈が、世界大戦期にどのような文学作品を生み出したか、また、それがいかなる社会的意義を持ちえたかを探った。 具体的には、ベルナノスの映画脚本『カルメル会修道女の対話』を、フランス革命期の史実や、原作であるル・フォールの中編小説『断頭台の最後の女』と対比させながら読解し、登場人物ブランシュ・ド・ラ・フォルスをジャンヌ・ダルクの系譜に連なる女性像として検討した。その成果を、国際シンポジウム「文学と芸術における宗教・民族をめぐる問い」において発表し、さらに論文化したものを著編書『文学における宗教と民族をめぐる問い』(朝日出版社)に掲載した。また、国際研究集会「響き合う女性像」において、研究協力者エリック・ブノワ教授(ボルドー・モンテーニュ大学)の講演「世界大戦期のレオン・ブロワとジョルジュ・ベルナノスにおける救済する女性像とジャンヌ・ダルクへの言及」を和訳し、議論することによって、複数の作家によるジャンヌ・ダルク解釈とその社会的意義について知識を深めることができた。
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