本年度は、平成27年度に引き続き、エイズ文学作品から視覚的イメージを抽出し解析する個別分析と、個別分析結果を映像資料の分析結果と比較参照する総合分析の作業を行った。総合分析の結果として、研究対象期間である1980~1990年代に創作された自伝的文学作品に代表的に見られるエイズ表象を明らかにした。これらの表象には、エイズという病気に特有の現代性が顕著に表われたものがある一方、エイズに先立つ諸々の病気の表象にも共通するイメージが多数見いだされた。このことから、エイズ文学作品のイメージ解析を行うことで構築された研究の枠組みを、伝統的な病気表象研究に応用展開することが十分に可能であることが明らかとなった。 研究成果は、以下のかたちでまとめた。 昨年度日本フランス語フランス文学会で行った口頭発表を出発点に、伝統的図像資料を例証としてエイズ文学作品のテクスト分析を行った。その成果を論文としてまとめ、学会誌『フランス語フランス文学研究』に掲載した。 エイズ関連作品においてしばしば問題となる視覚障害というテーマについて、ディドロからギベールまでフランス文学作品に表われる盲人の表象を考察し、研究成果を『仏語仏文学研究』に発表した。 エイズ文学作品にみられる主体(ウィルス保有者あるいは患者)の表象について、フランス・アメリカ・日本の作品を取りあげて比較分析した結果を、フランス語で執筆した論文の作成が最終段階にあり、国内外の学術論文雑誌に投稿する予定である。 欧米社会にエイズが蔓延し始めた時期に、マスメディアを介して流布されたエイズおよびエイズ患者のイメージと、同時期に書かれた自伝的なエイズ文学作品内で創造された主体のイメージとの比較を行った成果を、日本フランス語フランス文学会2017年度春季大会で口頭発表する。
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