研究課題/領域番号 |
26770118
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮崎 麻子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 講師 (60724763)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 記憶 / 物語 / 想起 / 東ドイツ / ホロコースト / 亡命 / 多言語 |
研究実績の概要 |
戦後のドイツ語文学において言語が想起の対象として現れるのはどのような場合か、その際、想起のメディアとしての言語と想起の対象としての言語との間にはどのような緊張関係が生まれるのか、という問題提起から出発し、亡命における記憶の問題についての調査を開始した。そして「言語の記憶」を、記憶観(記憶とはどのような性質のものであるか)の歴史性とヴァリエーションという観点から、「出来事の記憶」、「時代・時期の記憶」と比較することとした。出来事や時代の記憶については、報告者の以前からのポスト東ドイツ文学の研究と大きく関連している。これに関しては、東ドイツ出身の詩人ドュルス・グリューンバインの散文作品を分析した論文を学会誌「ドイツ文学」に発表した。そこで報告者は、東ドイツという時代の想起が、文学作品の中で複数の時代をめぐる重層的な想起へと展開していくという想起の形式について考察した。 亡命と言語の問題に関しては、図書の購入と、2015年3月に行ったドイツ出張により、多くの関連書籍や先行研究を収集することができた。特にアウスレンダーやツェラン、ドミンといった亡命詩人に注目し、彼らの作品をめぐる先行研究を収集した 出来事や時代の想起という観点でも、現代文学をめぐる論集や、記憶研究に関係する論集がドイツでは頻繁に出版されているため、先行研究の収集を行った。とりわけ、東ドイツからフランスに亡命した作家ホーニヒマンや、亡命者や移民をめぐる小説を多く書いたゼーバルトについての文献を収集し、調査を始めた。 出張先のベルリン・フンボルト大学では、資料収集のみならず、現地の研究者たちに多くの助言と議論の機会をいただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亡命と言語の問題について、ドイツ語圏を中心とした最近の研究動向を知るため、論集や研究書を購入し、さらにベルリンの図書館で「亡命研究」をはじめとした学術雑誌を閲覧した。以前からの研究の継続性のある東ドイツの記憶については学会誌論文が出版された。 新しい成果の発表に向けても作業が進捗した。第一に、亡命詩人ローゼ・アウスレンダーとヒルデ・ドミンらの作品に注目し、言語の記憶という問題について考察した論文を「異文化間のドイツ語文学研究雑誌(ZiG)」に投稿し、査読を通過した。この雑誌の2016年の号での掲載に向けて原稿の修正作業の段階に入った。第二に、2014年10月から11月にかけて募集がかけられた、フィンランドのトゥルク大学主催の学会Ethics of Storytelling: Historical Imagination in Contemporary Literature, Media and Visual Arts での研究発表に応募し、採用された。2016年6月初めにトゥルク大学で口頭発表を行う予定が決定した。第三に、ツェランの詩やゼーバルトの小説といったポスト・ホロコースト文学における記憶観について比較・考察した論文の執筆を行った。これは以前にベルリン・フンボルト大学の学会Archives of the Arctic(2013年9月)で行った口頭発表を発展させたものであるため、この学会の論集に寄稿を予定しており、編集担当の主催者および校正者と連絡を取りながら原稿を仕上げる段階に入った。
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今後の研究の推進方策 |
1.亡命と言語をめぐる記憶について、既に取り組んでいるアウスレンダー、ドミーン、ツェランについて論文を出版する。査読通過後の原稿の修正・仕上げ段階に入っている論文を、「異文化間のドイツ語文学研究雑誌(ZiG)」において発表する予定である。2.2016年の6月にフィンランドのトゥルク大学で行われるEthics of Storytellingの学会で口頭発表を行う予定である。そこでは、エルペンベックの小説Heimsuchungを題材に、ナチス時代や東ドイツ時代において様々に異なる立場の人々それぞれがどのような体験をしたのか、複数の記憶を並べて語る文学の形式について考察を行う。3.現在校正段階に入っている、ポスト・ホロコースト文学における記憶観について比較・考察した論文を完成させる。4.ドイツ語の詩が引用されている美術作品を手掛かりに、言語と記憶、芸術的メディアの関係について考察を行う。具体的にはポーランド出身のアーティストバウカによる、ツェランの詩との関連が見られる作品について考察する。5.亡命に限らず、異国において出身国やそこでの体験を想起するという行為が、文学作品の中でどのように現れるか、例を増やして分析する。特に、東ドイツの想起がシベリア、アメリカ、フランスを舞台にして語られる文学作品を比較することとする。これについて、「2000年以降のドイツ語圏の現代文学」をテーマとしたドイツ語論集に原稿を寄稿する予定である。
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