研究課題/領域番号 |
26770124
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文学部, 講師 (20726814)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 小雑誌 / 十九世紀末 / フランス象徴主義 / 文芸ジャーナリズム / メルキュール・ド・フランス / 白色評論 / レミ・ド・グールモン / アルベール・オーリエ |
研究実績の概要 |
本年度は(1)研究会で発表を一回行い、(2)査読付論文を一本執筆した。その他に(3)共著論文(依頼有)を一本執筆した。以下では科研費のテーマと直接関係のある(1)と(2)について報告する。 2月に行った研究会での発表「小雑誌から見る世紀末文学場の変容――『メルキュール・ド・フランス』の批評欄を中心に」では、1890年前後に創刊された小雑誌を『メルキュール・ド・フランス』を中心に取りあげ、これらの雑誌の創刊ラッシュが、文学場の再編成に果たした役割を分析した。とくに強調したのが、1885年周辺に創刊された雑誌群と、1890年代の小雑誌の間にある断絶である。後者の批評欄を読むと、前者には顕著であった流派間の論争を避け、演劇(上演)における表現的革新や、新ジャンル開拓への志向を共有しようとする動きが認められる。劇評欄以外では、雑誌末尾のイベント欄でも、作家が出席する様々な催しの詳細がしばしば報告されており、小雑誌を起点にして、無数の小さな共同体が構成され始めていたことが理解できるのである。 3月に投稿し、査読を経て掲載が認められた学術論文「初期『メルキュール・ド・フランス』誌の方針と実際』では、この雑誌の1890年から95年までの記事を対象に、編集部の意向と記事内容の対応関係を探った。三章構成のうち、第一章では『メルキュール・ド・フランス』の編集部の基本方針を分析し、編集長アルフレッド・ヴァレットが、非常に緩やかな形で雑誌の方向性を規定していることを論じた。そしてこの方向性は、劇評欄における文学の進化に関する議論(第二章)や、アルベール・オーリエとレミ・ド・グールモンが手掛けた美術欄の構成(第三章)に反映として見出しうることを明らかにした。 このように本年度は、先行研究では記事の内容にまで分け入って検討されることが少なかった『メルキュール・ド・フランス』を中心として研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の達成度は、執筆者が昨年秋より大学に専任講師として奉職したことに由来する。4月当初に設定した課題に割けるエフォートが大幅に減少したのであるから、これは必然的な結果ともいえる。 論文の数自体は、目標に記したとおりに一本執筆できたのだが、来年度の論文執筆のために必要な雑誌資料の読み込みと分析に遅れが生じている。そのため「やや遅れている」と自己評価した。 上記のような遅れが見られるにもかかわらず、小さな発見等により部分的に発展した箇所もあった。たとえばそれは、雑誌記事のなかで共有されているテーマを探ることの重要性である。単行本単位の研究とは異なり、広範なテクストを扱う雑誌研究では、論旨に一貫性をもたせるうえでも、切り口を厳密に設定して論じる必要がある。そのさい、各記事のコンテクストとなる部分に注目することで、記事の細部を活かしながら、各雑誌の固有性や全体像に迫る議論を展開することが望ましいと考えられる。 共有されているテーマは雑誌ごとに大きく異なるが、多くの場合、各雑誌には時代ごとにモデルとなる作家がいる。その作家の思想が、雑誌のエートス(理想とするイメージ)と深くかかわっているのである。先行研究の多くのアプローチに見られるような社会学的な方法では、この各雑誌の本質に係る部分を抽出すことはできない。 各記事の議論の前提となる部分(共有されているテーマ)は、テクストには直接的には書かれていないこともある。ゆえに、編集部の手による記事や、雑誌の中心人物が記した記事をさらに細かく分析してゆく必要がある。この作業の実行に向けて、エフォートを設定し直し、割くことのできる時間を最大限に活用できるように取り組む。それにより、これまでの遅れの解消を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度には、発表一つと一本以上の論文の公表を行う。まず前者に関しては、日本フランス語フランス文学会の東北支部大会において、東北大の今井勉教授、坂巻康司准教授とともに、19世紀末の小雑誌に関するシンポジウム「世紀末の文芸誌と作家たち」(仮題)を企画している。執筆者はアルフレッド・ジャリと小雑誌の関係について発表する。詳細なテーマは未定だが、ヴァレリー、マラルメ、ジャリという19世紀末に文壇で重要な位置を担った作家たちを、ジャーナリズム活動との関係から再検討することで、これまであまり注目されてこなかった象徴派における雑誌の共同体の問題を検討する予定である。ジャリは『メルキュール・ド・フランス』誌と関係をもったあと、20世紀に入ると『白色評論』誌と密接にかかわるようになる。その意味で、ジャリのジャーナリズム活動を検討することは、1890年代以降の小雑誌の多様性を検討する本課題の目的と合致する。 また、『プリューム』誌に関する論文を査読誌に投稿する予定である。これまで『プリューム』についての先行研究では、同誌掲載のデッサンやポスターを論じたものなどがある。じっさい『プリューム』は、『メルキュール・ド・フランス』や『白色評論』、『エルミタージュ』と比べても、視覚的要素の活用に大きな特徴が見られる。だが、そうした美術に係る側面と、文学芸術の側面は同誌において切り離せない関係にある。拙論ではこの点に焦点をあてて論じてゆく予定である。 2015年度は本課題のまとめの年となる。むろん小雑誌は大きな対象であるから、すべての側面を体系的に論じることにこだわる必要はない。だがそれでも、研究計画にも記したとおり、小雑誌における共有の問題を軸にして議論を展開することで、研究の全体像が浮き彫りになるように考慮しながら論文を執筆していく必要はある。
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