最終年度となる2015年度には、3つの研究発表を行い、それを活字化したものを含め、5本の学術論文に成果をまとめた。 「初期『メルキュール・ド・フランス』誌の方針と実際」では、批評欄が再編成される前の1895年の号までを対象に、同誌で頻繁に取り上げられていたテーマ(美術における擬古主義など)と、しばしば論争を引き起こしたジャンルに関する言説に焦点をあてて論じた。これにより、これまで未開拓であった『メルキュール』誌の初期号における思想的布置が具体的な形で検証された。 続いて「1890年代の「小雑誌」グループについて」では、『メルキュール』、『白色評論』、『プリューム』、『エルミタージュ』の四誌を取り上げ、各誌のグループ活動について論じた。先行研究では、マラルメの火曜会を唯一の例外として、象徴派の確固とした集団活動は論じられてこなかったが、この論により、作家間の交流や画家とのコラボレーションについて、はじめて幅広い視野から紹介することができた。 「『イマジエ』とジャリの美術批評の方法について」では、これまでほとんど知られていなかったこの版画雑誌について、誌面構成とそこに見られる美学を中心に論じた。そしてアナクロニズム的な時間論が、この雑誌を理論的に支えていることを明らかにした点に、この論の重要性がある。 上記のいずれの論文も、研究会や学会において口頭発表したものを、論文やシンポジウムの記録の形でまとめたものである。そのため、成果を公表するだけでなく、質疑応答で得られた観点を補うことで、客観性を高めて書くことができた。 また、平凡社より近刊の共著論集に書いた「「支配する声」と「声の借用」――ジャリにおける蓄音機、催眠術、テレパシー」では、ジャリと同時代の作家たちとの関係に焦点を当て、19世紀末の言論空間におけるジャリの位置を明確にすべく努めた。この視点は先行研究には見られなかったものである。
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