研究課題/領域番号 |
26770127
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
羽田 朝子 秋田大学, 教育文化学部, 講師 (90581306)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 梅娘 / 満洲国 / 日本経験 / 日本認識 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来注目されてこなかった「満洲国」の中国人作家の日本における文学経験を取り上げることにより、被占領国作家の占領国体験の意義を検討し、ポストコロニアルの視点から満洲国文学をとらえなおすことを目的としている。具体的には満洲国を代表する女性作家・梅娘の日本経験がその文学にどのような影響を与えたのかについて焦点を当てている。 前年度に梅娘の日本経験や日本を背景にした小説の検討を始めていたが、当該年度はさらに梅娘の文学活動全体における位置づけを踏まえたうえで、これらに対する分析を深めた。そしてその成果を学会で発表し、論文化する作業をおこなった。これにより、梅娘の日本文学の翻訳を通じて、彼女がその日本滞在期にモダニズムと総動員体制が併存する文化的・政治的な洪水の中に身を置いていたことを明らかにした。そしてその作品には、日本の植民地支配に対する抵抗意識だけでなく、それと複雑に絡み合った形で、近代的なモダン文化への憧憬、それによって生まれるジレンマや葛藤、卑屈な心情もまた描き出されていたことを指摘した。これはそれまでの梅娘研究では着目されることのなかった一面である。それとともに梅娘文学の日本滞在期から帰国後の北京での活動に至るまでの成熟を読み解いた。 またこの研究の過程で、梅娘が日本の戦争下における女性の動員や銃後の女性像に対して強い関心を抱いており、それがその文学活動にも反映されていることを発見した。このほか、より客観的な考察を導き出すために、梅娘と同時代に日本に留学した田琳という満洲国の女性作家の日本経験や日本題材小説との比較を行い、その特殊性について検討した。 当該年度の成果発表としては、梅娘の日本での文学経験や日本題材の小説についての研究発表を行い(2件)、また梅娘の日本における文学経験に関連する論文を中国語に翻訳し、中国大陸で出版された論文集で発表している(1件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、予定していた梅娘の日本における文学経験と日本を背景にした作品について、梅娘の文学活動全体における位置づけを踏またうえで読解・分析を深めた。そしてこの成果を学会で発表し、論文の形にまとめた(論文については平成29年度に掲載予定)。 さらにより客観的な考察を行うために、他の満洲国作家の日本経験や日本題材小説との比較についても分析を進め、梅娘の特殊性について検討している。 また当該年度には梅娘の日本経験と童話作品との関わりについて分析を行う予定であったが、研究の過程で当該研究課題における重要性が低いことに気づいた。そのため、より重要性が高いと思われる、日本の戦争期における女性の動員や銃後の女性像に対する梅娘の認識についての検討に切り替え、調査や分析を進めている。 これらにより本研究課題の研究の目的であった梅娘の日本での文学経験やそれが構築した日本イメージ、国家を超えたジェンダー的視点の形成が明らかになりつつあるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、本研究の成果発表を行う予定である。 当初の研究計画には予定していなかったものの、研究の過程で本研究課題において重要な意味をもつと判明した、以下のテーマについて研究を行う。他の満洲国作家の日本経験や日本題材小説との比較、そして日本の戦争期における女性の動員や銃後の女性像に対する梅娘の認識についての検討である。これらについては当該年度にすでに検討を始めていたが、さらに考察を深め、その成果を研究発表あるいは論文化する。 その上で、本研究課題のこれまでの成果を報告書にまとめる作業を行う。その過程で、補足するべき調査や資料収集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において中国国家図書館(北京)への調査のための旅費の支出を予定していたが、この調査を校務の関係で実施できず、中国国家図書館HPの雑誌閲覧サイトや論文ダウンロードサイト(CNKI)を活用することによって代替した。また梅娘の日本経験と童話作品との関わりについても分析を行う予定であったが、より重要性の高い別テーマに切り替えたことより、関係資料の購入や調査の必要がなくなった。そのため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、平成29年度に予定している国際学会での成果発表のための旅費や翻訳謝金として使用する。平成29年度分の助成金については、当初の予定どおり使用する予定である。
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