本研究では、満洲国の女性作家・梅娘の日本における文学経験に着目し、彼女が日本滞在期にモダン文化と総動員体制が並存する文化的環境に置かれるなか、多数の日本文学に触れ、日本社会で形成されていた近代女性像に共感していたことを明らかにした。そして梅娘が日本の帝国主義と近代性に向き合うなかで、中国知識人としてのアイデンティティを強めていく過程を解明した。 これにより中国文学における日中交流史を補完するとともに、それまで一面的な理解に偏ってきた被占領国作家の占領国体験について、豊富な読書経験、女性観の形成、近代体験と民族主義の相克、それによる民族アイデンティティの強化といった多様な要素を見出した。
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