最終年度は、Rouveret (2012)に基づく山村 (2016a)の理論的視座から、「英語法助動詞は古英語期から現代英語に至るまで変わらずvに生成される」という観点で、動詞句省略を分析した。特に英国英語に見られる「所有haveが動詞句省略の残余となる」事実に注目、所有have及び完了haveの史的発達について論じた(日本英文学会北海道支部大会第61回大会シンポジアム)。史的電子コーパスによる調査より、完了have及び英国英語の所有haveが動詞句省略の残余となる初出例が中英語であることから、vへの文法化が起きた時期を中英語と特定した。 本研究を通じて、疑似空所化の初期の研究(Levin 1980)による「疑似空所化は語彙動詞doの用法から発達した」という主張に反し、「do以外の(前)法助動詞の後ろで疑似空所化が継続的にみられる」ことが史的電子コーパスを用いた調査から確認され、山村 (2016b)にまとめられた。この結果を受け、動詞句省略及び疑似空所化に生成文法に基づく分析を与え、英語法助動詞の形態統語的特性の解明を試みた。その結果、①ゲルマン諸語は動詞句省略を許さない言語で、英語も歴史を通じてその例に漏れず、②英語法助動詞は古英語期から現代英語に至るまでvに生成される特異的要素であることを主張へ至った。 動詞句以外の構文で、the poorのように主要部名詞を欠く名詞句(名詞句内省略構文)の研究も進展した。「複数の人間」に意味的に制限される現代英語と異なり、古英語では広く観察される構文だが、特に「属格形」に関しては中英語以降、その使用の消失が知られていた(Yamamura 2010)。しかし、現代英語ではわずかに復活の兆しがみられることが文献調査から判明、この歴史的変遷は、形容詞屈折の衰退や空名詞proの空接辞への文法化によって理論的に説明された(山村 2016c)。
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