研究課題/領域番号 |
26770134
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 学 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (20568860)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 眼球運動 / 言語理解 / 構造的曖昧性 / 関係節 / 構造的予測 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は眼球運動測定という実験手法を用いて実時間上の日本語文理解プロセスを研究し、特に多くの過去研究のある関係節文の処理を対象に実験を行い、英語の処理と比較検討することにより、言語構造・文字の特性に基づく文処理方略の違いを明らかにすることである。申請者は初年度である平成26年度において3つの眼球運動測定実験を遂行した。一つの実験ではこの研究プロジェクトの理論的骨組みである「予測に基づく文処理モデル」(Levy, 2006; Hale, 2001)の日本語理解における有効性を検証した。その結果によって、日本語の読みにおいて読者は格助詞を元に構造的な予測を行っていて、その予測の確率に基づいて次に来る構造情報の処理コストが決定されていることが明らかになった。この結果は当該分野で最も権威のあるアメリカの学会で3月に口頭発表した。後の二つの実験は関係節文を対象として、日本語において主語関係節の方が目的語関係節に比べて処理が楽である理由として上述の予測処理がどのように関わっているかを検証した。この結果については現在もデータ分析を続けているが、現段階で明らかになったことして、関係節の曖昧性が解消される主部における注視時間が主語関係節の方が短いこと、そして主部の一つ前の動詞の部分でも同じように主語関係節文の方が注視時間が短く、目的語関係節に比べて処理コストが低いことがわかった。この結果は主語関係節文において曖昧性が解消される前に関係節が既に予測されていた可能性を示唆している。この結果は過去の研究結果と整合性があると同時にどの時点で(関係節内目的格の項情報、又は関係節内動詞情報)関係節予測が起きたかという今までわかっていなかった問題を明らかにすることができると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に当たる平成26年は申請書に記述した通り(1) 「予測に基づく文処理モデル」の実証実験、(2)日本語関係節文の読みにおける眼球運動測定を用いた複数の実験を行った。(1)の結果はアメリカカルフォルニアで行われたCUNY conference on sentence processingにおいて口頭発表を行った。更に新しい分析結果を加えた内容を7月に言語科学会第17回国際年次大会(JSLS 2015)にて口頭発表を予定している(採択済)。この結果は動詞末位型言語である日本語の特性を生かし、動詞句の項情報に基づく予測が動詞の処理コストに直接反映するという貴重な報告となっている。(2)の結果は現在も分析中であるが上述した通り、過去の研究で見られた、主語・目的語関係節文の処理コストのアシンメトリーに対して、新しいより詳細な知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、「予測に基づく文処理モデル」の実証研究については論文にまとめ、今年度中に国際学術雑誌に投稿することを目標としている。関係節文の処理に関する研究は、今まで得られた実験データの分析を更に進め、国内外の学会での発表、必要であれば追加実験を行い、論文執筆へスムースに移行できるようにまとめる。そして過去の研究との整合性を検証し、英語における関係節文の処理との比較、さらには眼球運動コーパス(Dundee Corpus)を使った、関係節文処理の眼球運動の言語間比較による検討を行う。そしてこれらの研究成果を国内外の学会にて積極的に発表していく。
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