本研究は,音声の諸要素,特に音調(=イントネーションやアクセントによる声の高さの動態)を考慮に入れつつ,現代日本語文法研究で記述された文法的意味を再検討し,その記述の成果のさらなる精緻化を目指して行った。研究最終年度となる本年度は,これまでの研究について,以下のような知見としてまとめた。 (1)同意要求の「新表現」とされる「クナイ」には,先行研究で前接することが指摘されていた形容詞の他に,形容動詞,動詞が前接することが可能である。さらに,「クナイ」単体で使われることもある。 (2)同意要求表現(=話し手が聞き手に発話内容について単純に同意をしてほしいと思う際に使用される。なお,話し手と聞き手,それぞれが所有している発話内容に関する情報量については問わない)と,確認要求表現(=話し手が聞き手に発話内容に判断してもらいたと思う際に使用される。なお,話し手よりも聞き手のほうが発話内容に関する情報量が多い)場合では,使用される言語形式が同一であっても,使用される音調が異なる蓋然性がある。 ただし,以上の結果は,ごく限られた人数の東京方言話者の読み上げ音声をもとに導き出した結論であり,一般性が認められるかについての検討にまでは至らなかった。 なお,本研究で取り上げた同意要求の「新表現」とされる「クナイ」は現代日本語使用社会に観察される「新表現」であるが,この「新表現」の分析を行うにあたって現代日本語使用社会を「多言語」の文脈で考える必要性も感じるに至ったため,本年度はそのような枠組みを模索する考察もあわせて行った。
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