研究課題/領域番号 |
26770140
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
澤田 治 三重大学, 人文学部, 准教授 (40598083)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スケール / 比較 / 非真理条件的意味 / 談話構造 / 否定 / 慣習的推意 / 視点 / 投射 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非真理条件的(感情表出的、談話的)スケール表現の談話構造とコンテクスト変換(context-shifting)機能を明らかにすることである。平成28年度に、主に行った研究は、以下の通りである。 [1] 否定用法の「とても」 の意味・談話的機能について引き続き研究を行った。否定用法の「とても」は、当該の命題(行為)の不可能性、ありえなさを強調し、その命題を受け入れることを拒否するという話し手志向的な意味・機能を持っており、それらは、非命題レベル(慣習的推意のレベル)で表示されているという点を論証した。また、新たなタイプの否定極性項目として、「反論的否定極性項目」の存在を提案した。研究の内容は、シカゴ言語学会 (Chicago Linguistic Society)、2016年度日本英語学会シンポジウム、東海意味論研究会(2016)で発表した。
[2] 埋め込み環境における感情表出表現の意味解釈について考察した。とりわけ、感情表出用法の「もっと」が態度動詞の補部に埋め込まれた際、どのような視点を持つのか(話し手志向的か主語志向的か)という問題について考察し、埋め込み文内の感情表出的な「もっと」は、主節に話し手志向的なモーダル(根源的)がある場合にのみ話し手志向的になりえるということを論証した。研究内容は、ドイツ言語学会 (DGfS) およびLENLS 2016で発表した。
[3] 引き続き、共同研究者の澤田淳氏と、モーダル(反期待)を表す日本語の指示詞「あの」について考察を行い、とりわけ、反期待を表すモーダル「あの」と、驚きを表すマーカー(mirative marker)との意味的な類似点・相違点について考察した。研究内容は、The 24th Japanese/Korean Linguistics Conferenceで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクト全体としては、おおむね順調に進んでいるといえる。これまで、否定用法の「とても」、反期待を表す副詞「かえって・よっぽど」、否定の「もっと」、モーダル指示詞、話題転換用法の「それより」等、語用論レベル(非真理条件レベル)で使われるスケール表現の意味、機能について考察してきたが、少しずつ、スケール性が談話構造とコンテクスト変換性に関してどのような役割を果たしているのかが明らかになってきている。
それぞれの現象に関する研究の一部は、国内外の学会、研究会で発表することができたが、今後は、理論面・現象面さらに内容を深め、論文としてまとめることを目指したい。
また、昨年度は、Oxford University Pressから出版される専門書(Pragmatic Scalar Modifiers: The Semantics-Pragmatics Interface)の最終原稿を完成させることができた。この本では、「比較」、「少量を表す程度副詞」、「協調表現」、「反期待を表す副詞」の語用論的用法に焦点を当てているが、今回のプロジェクト(語用論的スケール表現の談話構造とコンテクスト変換機能)とも深く関わったものになっている。本プロジェクトの研究内容も反映させた形で出版したい。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本プロジェクトの最終年である。これまでの研究を、さらに深め、論文として形にすることに力を入れる。とりわけ、以下の4つの課題に取り組む。 [1] 非命題的内容語の投射的振る舞いについて:引き続き、感情表出用法の副詞「もっと」が態度述語の補文に埋め込まれた際どのような視点を持つのか(話者志向的か・主語志向的か)という問題について考察し、論文としてまとめる。また、「よっぽど」や「かえって」等の関連現象との比較も行い、非命題内容語の視点のシフトのメカニズムについてより広い視点から考察する。 [2] 否定用法の「とても」: 昨年行った、否定用法の「とても」についての分析をさらに深める。とりわけ、否定の「とても」が否定極性項目の理論に対してどのようなことが言えるのかという点について考察する。研究内容を論文としてまとめ、ジャーナルに投稿する。 [3] モーダル用法の「あの」:共同研究者の澤田淳氏とこれまで行ってきたモーダル用法の「あの」についての研究を論文としてまとめ、ジャーナルに投稿する。合わせて、モーダル指示詞と情報構造との関係に関して新たに見つかった課題についても引き続き考察する。 [4] 話題の転換を表す「それより」について、引き続き考察する。とりわけ、(i)「それよりも」のゴール・話題転換機性はどのような談話構造を有しているのか、また(ii)「それよりも」の持つ「否定的意味」はどのようなメカニズムによって現れるのか、という問題について形式意味論・語用論の観点から考察する。 また、これまでの研究により、新たに、(i)談話表現と情報構造の関係、(ii)感情表出の視点のシフトと他の視点現象との類似点と相違点、(iii)感情表出性的否定極性項目の多様性等に関して、新たな課題が見つかった。今後も、これらの点について考察し、今後の研究の方向性・可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に参加予定の国際学会への旅費の一部として使用したかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
5月にカナダで行われる国際学会の旅費の一部として使用する。
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