本研究の目的は、非真理条件的(感情表出的、談話的)スケール表現の談話構造とコンテクスト変換機能を明らかにすることである。最終年度に行った研究の成果は以下の通りである。 [1] 否定用法の「とても」 の意味・談話的機能についての研究を引き続き行った。否定の「とても」は、通常の否定極性項目と異なり、ある命題pが発話状況の中で活性化され、真であることが期待されている中で、話し手がpの不可能性・ありえなさを強調する感情表出的なNPIであるということを明らかにした。研究内容を論文としてまとめ、雑誌に投稿した。 [2] 日本語の比較表現「それより」と「何よりも」の談話依存的特性について考察した。「それよりも」や「何よりも」は、それぞれ、「話題の変換」や「優先的リスト」といった機能を持ち得るが、「それよりも」と「何よりも」の談話機能の背後には、スケール構造(終点的・非終点的スケール)と一般的な会話の原理が深く関わっているということを論証した。研究の内容を、国内外の学会、ワークショップで発表した。 [3] 驚きを表す「あの」:共同研究者の澤田淳氏とこれまで行ってきた驚き用法の「あの」の意味について、Japanese/Korean Linguistics Conferenceのプロシーディングズとしてまとめた。また、驚きを表す「あの」が意外性(mirativity)の理論一般に関してどのようなことを示唆しているのかという問題について考察した。意外性を表す表現について新たな類型・意味論的メカニズムを提案し、論文としてまとめ、雑誌に投稿した。 [4] 本研究内容を含めた形で、Oxford University Pressより、Pragmatic Aspects of Scalar Modifiers: The semantics-Pragmatics Interfaceを単著として出版した。
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