本研究ではアイデンティティ形成に大きな影響を与えるジェンダー、世代、異文化といった社会的要素に着目しながら、会話の共創に向けた「リスナーシップ」行動のメカニズム解明を目指してきた。 大学生の世代の会話データでは、男性同士、女性同士、男女間の会話を通じて男女の聞き手の役割とアイデンティティとの関係性を調査してきた。「会話のコンテクスト化の合図」(Gumperz 1982)の枠組みから分析した結果、女性同士では共感の共有、男性同士では仲間意識の構築、男女混合では参与者同士の連携などが、様々なリスナーシップ行動を通じて観察された。これらの行動は会話のコンテクスト化の合図として会話の盛り上がりがみられる状況で特に機能していた。 同調現象はリスナーシップ行動の顕著な特徴として観察された。会話のコンテクスト化が促進されると話し手と聞き手の区別は無くなり参与者同士の一体化がみられる。この「会話の一体感」をもたらす同調現象について、「場の理論」(清水 2004)から解釈を試みた。会話の一体感を共有する過程には会話の開始部から、ターニングポイント、クライマックスといった段階があり、それぞれの段階では複数の言語及び非言語によるリスナーシップ行動が用いられ、それらによる参与者同士の同調が大きな役割を果たしていることが分かった。 これらの研究結果をまとめた論文が書籍の2章分としてすでに出版されている。また、現在同調現象についての論文を書籍の1章分として書き上げ、出版に向けて最終の編集段階にある。6月に開催される国際語用論学会でも同調現象に関するパネル発表を予定しており、今後も同調現象についての成果を提示していく。 最後に異文化については研究計画に従ってデータ収集を重ねていくことを目標とし、今年度長期留学を予定する大学生5名と長期留学から帰国した学生4名へのインタビューとアンケート調査を完了した。
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