平成26年8月1日~8月26日、平成27年3月10日~3月24日、平成27年8月4日~8月25日、平成27年12年23日~平成28年1月6日という日程で、中国江蘇省の無錫市、蘇州市、常州市などにおいて、各方言のトーンに関する言語調査を行った。 調査の結果、北部呉方言におけるパターン代入(pattern substitution)型トーンサンディーに関する理解が深まった。特に無錫方言においてはパターン代入が一種のトーンクロック(tone clock)をなしているが、無錫市中心部の若年層を対象として無意味語を用いた調査を行った結果、少なくとも産出の面では高い生産性を示すことが明らかとなった。トーンクロックとは、例えば、A型のトーンパターンがB型に、B型がC型に、C型がA型にというような交替をするトーンサンディーのことである。さらに、無錫市中心部の高齢層や無錫市郊外地区(雪浪鎮、華荘鎮、旺荘鎮)の話者を対象とした調査を行ったが、無錫市中心部の若年層と同様に高い生産性を示唆する結果となった。 また、無錫方言におけるトーンサンディーのドメインについても調査を行った。上海方言など他の北部呉方言と一致する点も多いが、一部の統語構造についてはドメインの形成のされ方が異なることが示唆される結果となった。他にも、トーンパターンの音声的な実現形や、前軽声と呼ばれるタイプのトーンサンディーについても調査を行った。 なお、以上の調査結果をまとめた論文は現在投稿準備中である。
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