本年度は各地にどのような話術が存在し、かつ、それらがいかなる地域差をなしているのかについての全国調査の実施に向けて、先行研究の整理や、文献調査を中心に研究を行った。とりわけ、小林隆・澤村美幸(2014)で提示した話術の東西差から、さらにバリエーションがあることを発見し、それがどのような背景から生じてきているのかということに関して、社会学や民俗学など隣接科学の知見を参考に分析し、理論の構築を進めている。現在は特に話術の中でも、社交辞令にテーマを絞り、さまざまな事例から、話術の地域差を解明しつつある。 たとえば、「歓迎したくない客がやってきたときに何と言って帰ってもらうか」など、心の中で思っていることを率直に口に出しにくい状況で、本音と建前をどのように織り交ぜて、相手を帰らせようとするのか、といったことにも、明らかに地域による差異が認められる。配慮表現や語用論、談話研究などさまざまな領域にまたがる問題ではあるが、こうした表現に地域差があるということはこれまでほとんど気づかれてこなかったことである。 ともすると日本人同士であっても地域差であるということがわからずに、相手の発言を「失礼」だとか、「ものの言いかたを知らない人」といった評価を下してしまいがちであり、コミュニケーションの上で大きな弊害ともなりうる問題であり、今後研究を進めていくことによって、単なる学問上の進展が得られるだけでなく、人々のコミュニケーションに大いに役立つものとなる可能性が高いと言えよう。 また、日本国内の地域差に留まらず、韓国や中国などの話術と日本人の話術の違いについても並行して調査を進めているところである。
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