研究課題/領域番号 |
26770163
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
勝又 隆 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (60587640)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 形式名詞 / 文末名詞文 / 体言締め文 / モノナリ文 / 連体ナリ文 / 係り結び / 文法史 / 構文構造 |
研究実績の概要 |
学術論文「古代日本語におけるモノナリ文と連体ナリ文の構造的差異について」(『西日本国語国文学』第1号、2014年7月)において、モノナリ文と連体ナリ文の差異について、以下のことを述べた。 (1)「係り結び」との共起は、連体ナリ文には見られないが、モノナリ文には上代・中古ともに現れる。 (2)主語に下接するガ・ノは、連体ナリ文には現れるが、モノナリ文( 主節用法) には上代・中古ともに原則として現れない。これは用言述語文の終止形終止と同じ構文的特徴である。 (3)モノナリ文と連体ナリ文は、構造、用法の点で差異が大きく、モノナリ文から連体ナリ文への通時的な連続関係は認めがたい。 (4)(1)(2) から、モノナリ文は普通の名詞述語文と用言述語文の両方の特徴を持つ構文であると言え、現代語の文末名詞文・体言締め文と類似している。 また、口頭発表「上代における「連体形+形式名詞」節の分布について」(名古屋言語研究会例会(第129回)、2014年12月)において、モノ以外の形式名詞全般について調査した結果より、以下の点を指摘した。 (1)上代においては「連体形+形式名詞」節自体があまり発達していない。 (2)「連体形+モノ」節は述部にはよく現れるが、補語にはなりにくい。 (3)「連体形+コト」節は、補語にはよくなるが、述部にはあまり現れない。 (4)両者の分布を、よく現れる構文の違いという観点から捉え直すと、モノとコトは、上代から現代まで用法を変遷させながら存在してきた「連体節+コトアリ/ナシ」と「連体節+モノ+コピュラ」という構文をそれぞれ担ってきたということがわかる。
以上より、モノナリ文が他の形式名詞述語文に比して特異な構文であり、上代から現代に至る体系的変化の影響をその変化のあり方から推測するという観点を与えてくれる構文でもあることを主張した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画は、以下のとおりであった。 (1)モノナリ文とモノゾ文の特性とその差異、およびその原因について明らかにする。 (2)連体ナリ文とモノナリ文の特性および共通点と相違点を記述し、両構文の関係について考察する。 (3)形式名詞コト・ヤウ・サマの上代・中古の用例を採集する。 (2)は研究実績の概要で挙げた「古代日本語におけるモノナリ文と連体ナリ文の構造的差異について」(『西日本国語国文学』第1号、2014年7月)として論文化した。(1)は進展しなかったが、それは(3)が予定よりも進展したため、優先順位を入れ替えたためである。(3)は用例の採集のみの予定であったが、その作業の過程で形式名詞述語文自体が上代にはあまり発達しておらず、中古に入っても文末名詞文としての条件を満たしうる構文は少ないことがわかって来た。(2)との研究の連続性がより強いため、(3)を進めることとし、「古代日本語における形式名詞述語文の使用状況について」(第256回筑紫日本語研究会、2014年8月)、「上代における「連体形+形式名詞」節の分布について」(名古屋言語研究会例会(第129回)、2014年12月)の2回にわたって口頭発表を行った。当初計画では平成27年度に実施する内容を前倒しして実施しており、3年間の研究計画全体で見た場合、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、以下の研究を行う。 (1)形式名詞モノ・コトを中心に、他の形式名詞も含めてその分布や、形式名詞述語文としての特性や共通点、相違点について考察を進め、論文にする。 (2)中古のゾ・コソによる係り結び構文を採集し、上代との共通点と相違点について考察する。 (3)中古の連体ゾ文を採集し、モノナリ文、モノゾ文も含めてそれぞれの特性、共通点と相違点などについて考察する。 (1)は平成26年度の当初計画(3)が予定より進展したため、その調査・考察を継続して論文化する。(2)と(3)は形式名詞述語文の変遷を記述する上で、係り結び構文とどのような関係にあるかを考察するための調査である。係り結び構文は、モノゾ文や連体ゾ文はもちろん、モノナリ文や連体ナリ文とも類似した形式や用法を持つ。すでに明らかになっているように、形式名詞述語文27年度の(3)に含むこととし、モノゾとモノナリという1対1の対応で考えるのではなく、より多くの構文との比較を通して、その実態を明らかにする。 具体的な観点としては、推量表現となりうるかどうかという点が今までの考察から問題となってきているため、「知識表明文」に現れるか「判断実践文」に現れるか(福田嘉一郎「説明の文法的形式の歴史について―連体ナリとノダ―」(『国語国文』67(2)、1998年))を中心に見ていく。また、中古の用例に関しては、その談話的な機能にも注目し、論理展開や描写の具体・抽象、場面転換等についてどのような役割を果たしているのかについても確認した上で、各構文の共通点と相違点について考察していくことで、一つの観点では明確な差異が見つからない場合のリスクを回避するとともに、より実態を反映した正確な記述を目指す。平成28年度はそれまでの成果に基づき、上代から中古にかけての形式名詞述語文の動態を論文にまとめ、論文や学会発表において成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年8月30日に行った研究会での口頭発表は、本来8月8日から8月10日にかけて実施予定であった筑紫日本語研究会の合宿で行うはずであった。しかし、台風の影響で中止となったため、代替開催となった8月30日に実施した。それに伴い、会場が大分県から福岡県(九州大学)に変更となったため、予定した旅費が不要となった点が主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、平成26年度と同様の研究会での発表に加え、学会やシンポジウムでの成果発表を予定しているため、20,016円の次年度使用額はその旅費の一部として使用する計画である。
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