平成28年度においては以下の研究活動を行った。 口頭発表「中古における「連体形+コトナレバ/コトニテ」による原因理由節について」を8月に実施された第267回筑紫日本語研究会において行い、それをもとにした学術論文「中古和文における原因理由節を構成するコトナレバ・コトニテについて―『源氏物語』を中心として―」(『福岡教育大学国語科研究論集』58号)が平成29年3月に刊行された。これは形式名詞コトが述語となる構文が原因理由節を構成する際の特性を記述したものである。 また、12月には名古屋言語研究会(第151回)において、口頭発表「中古和文における「連体形+ゾ」文の構造について」を行った。「形式名詞モノ+ゾ」については本研究期間以前に扱っており、平成26年度には連体ナリ文とモノナリ文について扱っている。そこで、「連体形+ゾ」がどのような機能を持つのかについて中古和文を対象に考察した。 研究期間全体では、以下のことが明らかになった。(1)中古和文において、連体ナリ文と連体ゾ文は現代語のノダ文の機能を分け合う形で共存している。(2)モノナリ文やモノゾ文は、現代語の文末名詞文(体言締め文)と共通する特徴を持つ。(3)上代において、名詞モノが述部を構成することは珍しくない。しかし、それ以外の抽象的な意味の名詞コト・ワザ・サマ等が述部に現れることは稀である。(4)中古和文においては、さまざまな形式名詞が述部に現れるようになる。しかし、主節の述部に現れている用例について「主語にガ・ノが現れない」という条件に絞り込むと、モノナリ文・モノゾ文にほぼ限られる。(5)中古和文のコトナレバ・コトニテに注目すると、わずかながら「節の名詞化」が認められる。(6)(4)と(5)を踏まえると、形式名詞述語文の成立は従属節から徐々に「節の名詞化」が始まり、主節へと拡大していくというプロセスを仮説として想定できる。
|