研究課題/領域番号 |
26770164
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
劉 志偉 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (00605173)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 和歌八重垣 / 春樹顕秘増抄 / 有賀長伯 / テニヲハ論書 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、平成26年度作成した『和歌八重垣』におけるテニヲハ関連の記述と『春樹顕秘増抄』の記述との対照一覧表をもとに、以下の4つの分類に沿って整理を行った。
ⅰ重なる小項目のうち、類似した説明を施している箇所ⅱ重なる小項目のうち、異なった説明を行っている箇所ⅲ『和歌八重垣』にあって『春樹顕秘増抄』にない小項目ⅳ『春樹顕秘増抄』にあって『和歌八重垣』にない項目
特に「はねてには」の記述に着目して、両書に見られる有賀長伯のテニヲハ観について論文を発表した。具体的には(a)初期のテニヲハ論書(『手爾葉大概抄』「姉小路式」『手爾葉大概抄之抄』)・『春樹顕秘抄』と『春樹顕秘増抄』の記述との関連(b)有賀長伯による増補の姿勢の2点から考察を行った。その結果、『和歌八重垣』では「詰め刎ね」と「治定」の2つの用語を意図的に回避した形跡が認められた。この2つの用語はテニヲハ論においては難解的であったため、諸書における該当箇所の間には記述の混乱があった。「姉小路式」の流れを汲む『春樹顕秘増抄』とは異なり、有賀長伯が『和歌八重垣』を表す際「姉小路式」の枠に囚われることがないため意図的にこの2つの用語を回避し、自らのテニヲハ観を示すことができたと考えられる。また、同じ著者でありながら、「姉小路式」の記述を踏襲する傾向が強かった『春樹顕秘増抄』の記述とは対照的に、『和歌八重垣』の記述は、「姉小路式」とは別の系統である『手爾葉大概抄之抄』の影響も強く受けたことが窺える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は概ね研究計画書の通り、『春樹顕秘増抄』と『和歌八重垣』における記述を比較し、その研究成果を公表することができました(論文の掲載が決定している)。ただし、その全体像のすべてを示すことには至っておらず、今後も継続的な研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(平成27年度)は有賀長伯のテニヲハ観が最も顕著に表れていると思われる「はねてには」の記述に焦点を当てたが、今後はそれ以外の項目に関する両書の記述を考察し、その全体像の提示を目指す。その作業を通じて、記述の内容面から『春樹顕秘増抄』と『和歌八重垣』の成立に関する前後関係を一試案として提示したい。また、今回の研究では触れられなかったが、両書の編纂目的をも視野に入れながら、両書の記述の異同に与えた影響についても考えてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
・学会発表に伴う出張が28年度に延期となったため、旅費相当額が余った。 ・購入予定の参考図書の一部が昨年度内の調達ができなかったため、28年度に延期された。
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次年度使用額の使用計画 |
テニヲハ論書は詠歌上のテニヲハ使用の心得であり、いわば日本語母語話者による文法意識を反映するものと見なすことができる。これに対して、外国人が日本語を学習する際に日本語文法に対する学習者の視点からの文法意識がある。一見必然的な関連がないように思われるが、実は両者の間に相通ずる点もある。その一例がテニヲハ論における重要な用語「五音」である。本年度は学習者の視点から関西方言におけるウ音便と若者表現の1つであるイ形容詞のエ段長音を取り上げ、2つの文法意識の関連を探り、日本語の特質の1つとも言える「五音相通」現象について論じる予定である。これらの研究活動を施行するにあたり、参考図書を購入するほか、学会発表に伴う諸費用を支出する予定である。
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