概ね当初の計画書通り、近世のテニヲハ論研究史を論じるにあたって避けては通れない重要な人物有賀長伯の著とされる『和歌八重垣』と『春樹顕秘増抄』の二書を考察対象とし、有賀長伯の言語意識(テニヲハ観)を明らかにしようとした。具体的には、『和歌八重垣』と『春樹顕秘増抄』に先行する「姉小路式」の記述を手がかり、両者の具体的な記述を比較した。上位項目と下位項目の順に、類似した説明を施している箇所とそうでない箇所とに分けて比較作業を行い、そこから読み取れる有賀長伯の言語意識(テニヲハ観)を探った。中でも最も有賀長伯のテニヲハ観を示すものと思われる「はねてには」の記述を取りあげ、『和歌八重垣』と『春樹顕秘増抄』における記述の異同をもたらした一因を、近世のテニヲハ論を取りまく史的背景にあると結論づけた。詳細は(「『和歌八重垣』と『春樹顕秘増抄』に見られる有賀長伯のテニヲハ観─「はねてには」の記述を手がかりに─」『言語の研究』第2号、pp.1-13、首都大学東京言語研究会、2016年7月)を参照されたい。 また、旧派のテニヲハ論書に見られる当時の日本人による文法意識が、研究代表者のような日本語学習者の視点から現代日本語の文法現象と相通ずる点があることから、関西方言のウ音便と話し言葉におけるイ形容詞のエ段長音を例に日本語文法の史的研究と日本語教育との接点を論じた。詳細は(「日本語文法の史的研究と日本語教育との接点―関西方言のウ音便と話し言葉におけるイ形容詞のエ段長音を例に―」『武蔵野大学日本文学研究所紀要』第4号、pp.65-74、武蔵野大学日本文学研究所、2017年3月)を参照されたい。
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