申請者はこれまでに、日本語の出会いのあいさつ表現について、選ばれたいくつかの地点で待遇的観点での調査・記述を行い、変化の動態を考察することで、使用実態の在り方を説明する日本語あいさつ表現の変化モデルを得た。本研究では、調査対象の地域と場面を拡大して記述調査を行い、これまでの研究で得た日本語あいさつ表現の変化モデルを検証し、必要に応じて修正を図り、日本語あいさつ表現の変化モデルを確立することを目的とする。 本事業の研究実施計画では、平成30年度は、これまでに調査データが十分に得られていない地域のデータを収集し、あいさつ表現の変化モデルを完成させることを予定していた。その点については、九州及び南琉球諸島で面接を行い、データを補充することができた。また、場面間の定型性の検証のためのデータについては、定型非定型中間地域である東北地方での使用実態の調査を追加で行い、様々な場面間の使用表現の定型化の度合いの差の検証を行った。さらに、あいさつ談話データの考察により、あいさつの談話展開を詳しく見ることで、あいさつ表現の定型化の過程を精緻化する研究視点を得ることもできた。 これらの調査結果とこれまでに得た知見の考察結果を総合し、地域間のあいさつ表現使用実態の多様性を生む要因として、これまでに明らかにしていた①地理的中心性、②世代差、③待遇的場面差、④都市化度に加え、⑤あいさつ場面差、⑥言語的発想法の地域差が、あいさつ表現の定型化の地域差に関わることを明らかにし、あいさつ表現の変化モデルの確度を高めることができた。 一方で、あいさつ場面差による定型化の差については、研究課題の進展に伴って得た着想をもとに精緻化した調査のデータをもとにしているため、限られた地域のデータから得た結論とも言える。そのため、今後出会いの場面のみならない多様なあいさつ場面の全国的な記述データをもとにした検証が必要となる。
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