平成28年度に、明治後期から大正期に録音された落語音声の書き起こし資料に触れる機会を得た。明治期以降の江戸東京語、大阪語の話し言葉資料として価値のあるものであり、本研究課題を発展させる資料として有益であると考え、平成28年度から29年度にかけてこの資料を対象に逆接を中心とした接続表現についての調査を行った。落語の音声が当時の方言資料として貴重であるのはもちろん、落語家が聴衆に話しかける「地」の部分は明治期以降の「標準語」形成の問題においても貴重なサンプルである。そのような観点で分析を行った結果、会話文においては江戸東京、大阪の各地方言の特徴が明確に現れ、「地」においては江戸東京落語であっても大阪落語であっても、方言的要素が会話文よりも減少した「標準語」的話体が観察された。「標準語」形成の問題を接続表現に表れるパーツの出現状況から捉えて考えるというアプローチによって、「標準語」形成の実態の一面が明らかになったものと考える。平成29年度中にこの成果を論文化し、当該の資料を活用することを目的として企画された論文集に寄稿したが、編集中であり刊行に至っていない。 また、共同研究員として参画している人間文化研究機構国立国語研究所の「通時コーパス」プロジェクトの研究と、本研究課題の成果を関連づけて、接続助詞の使用傾向に基づく文体研究を行い、プロジェクトの研究会において成果発表を行った。 昨年度の段階では開発中のコーパスを利用して、近松門左衛門等の浄瑠璃台本の調査を進める予定であったが、「通時コーパス」の中に収録される予定の浄瑠璃台本データが、計画の変更により、本研究課題の調査に適した整備状況に至らなかった。本研究課題の関連研究を今後も継続して行くにあたって、最新の言語資源を有効利用していくことも重要課題であると考えているため、コーパス整備状況を伺いつつ今後の研究課題としていく予定である。
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