研究実績の概要 |
本研究では、言語学者ノーム・チョムスキーが提唱した「生成文法理論」に従い、ヒトが文を生成する過程においてどのような計算処理を行っているか、その一端を解明することを最終目標としている。チョムスキーは、ヒトは生得的に備わった「言語能力」を使用することで、非常に短期間のうちに母語を獲得し、また母語に関しては瞬時に文法的な文を生成・理解することができると主張している。この言語能力の中身を明らかにする為に、本研究では文生成の過程で中核をなしていると考えられている2つの操作「併合(Merge)」及び「転送(Transfer)」に特に注目し、その特性を複数の言語データにより検証することで、解明することを目指している。 平成28年度は主に併合操作の中でも特に「ペア併合」に焦点を当て、英語の補文化辞thatが音声的に具現化されない場合の派生に関して研究を行った。セット併合に内的併合と外的併合が存在するように、ペア併合にも内的・外的併合が存在するはずであるという、Epstein, Kitahara and Seely (2016) の主張に従い、音声的に具現化されない英語の補文化辞は、実際には外的ペア併合により「接辞/束縛形態素」として派生内に存在していると主張した。その結果、自由形態素としての補文化辞しか存在しない英語では、束縛形態素としての補文化辞を音声的に具現化する手段がないため具現化されないことを示した。この研究は、これまで諸説あった音声的に空の補文化辞の扱いに関して新たな可能性を示すことが出来るだけでなく、併合操作の性質の解明にも貢献するものであると考えられる。 この研究成果は金沢大学において開催された第34回日本英語学会年次大会のシンポジウムにおいて発表し、その後論文にまとめたものを現在ジャーナルに投稿中である。
|