研究課題/領域番号 |
26770173
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研究機関 | 名古屋外国語大学 |
研究代表者 |
川原 功司 名古屋外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70582542)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スケール / アスペクト / 移動動詞 / 意味論 / 言語類型論 |
研究実績の概要 |
移動動詞は,有界的・非有界的表現と組み合わされて,様々なアスペクト特性を見せる。有界という概念には,時間的な区切れがあり,in one minute「一分で」のような完結時点を示す副詞と共起できる。一方,非有界という概念には,完結時点が含まれないため,for one minute 「一分間」という継続時間を表す副詞と共起できる。下記の2つの例においては,to the libraryの有無により,完結性に違いが見られる。1 John walked to the library in one minute/??for one minute.(完結的)2 John walked ??in one minute/for one minute.(非完結的)Talmy (2000) は,移動を表す動詞に様態が含まれるか,経路が含まれるかという類型論的分類を提案している。これに従えば,英語は衛星枠付け言語に,日本語は動詞枠付け言語に分類される。英語では,1に示したように移動様態動詞に経路を衛星として組み合わせた表現が可能だが,日本語では同種の表現が不可能であり,下記に示すように移動方向(到達)を示す「いった」のような表現が移動様態動詞にくっつくか,移動様態を衛星として表現する必要がある。3 *ジョンは,図書館に歩いた。/ ジョンは,図書館に歩いていった。/ジョンは,歩いて図書館にいった。本研究の目的は,スケールを用いた意味論によって,これら動詞句の意味を統一的に分析することが可能かどうか調査することである。また,Talmyによる移動表現の言語類型論的一般化に関して,日本語と英語,及び諸言語の比較を通して,新たな見解を提示することも視野に入れる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移動動詞を用いたイベントにおいて,到達点が動詞句に含まれるか,衛星(それ以外)に含まれるかという区分は,動詞句が文という構造を支える骨組みであり,本動詞句が1つの文には1つしか使用されないのが基本であるという観点を持てば,Talmyによる類型論的な分類は,到達点を示す語句がどの語彙に含まれるかという問に帰することが可能である (Beavers et al.,2010)。この知見を踏まえ,本研究では,到達点を示す語句を最大限の基準に基づく計量関数として扱うことができると想定し,様々な移動動詞による表現の分類・記述を始めた。 2015年6月にヨーク大学でWorkshop on Altaic Formal Linguisticsが開催されたため,2015年度はアルタイ語族に関連する移動動詞の分類を行った。そこで,モングォル語,モンゴル語,トルコ語,日本語,朝鮮語が動詞枠付け言語であり,カラチャイ・バルカル語,チュヴァシ語,エヴェンキ語が衛星枠付け言語であるという過去の文献の指摘を参照し,形式的な分析を提示した。その後,エヴェンキ語の分析を通して,移動イベントにより主体が目的地に移動する結果の意味を衛星枠付け言語では,前置詞句・後置詞句が担うとする形式的な分析を提示した。これにより,移動動詞に関する言語類型論に関して,より明示的な見解が提供できる可能性が開けた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,プロジェクトの最終年となっている。本年度は,ここ2年の研究成果をまとめ,ジャーナルに投稿することが課題になる。特に,動詞枠付け言語の特徴と衛星枠付け言語の特徴を移動動詞以外の観点からもまとめ,よりたくさんの経験的事実が記述できる研究につなげていくことを目標にする。具体的には,(1) 移動到達だけではなく,他動詞文によるイベントに結果が包含されるパターンに動詞枠付け言語と衛星枠付け言語と同種の平行性が見られること,(2) 結果述語など,二次述語の生起と特性に関しても,動詞枠付け言語と衛星枠付け言語と同種の平行性が見られるということにも注目し,本プロジェクトから来年度以降のプロジェクトの橋渡し,そして,その2つのプロジェクトの包括を視野に入れ,現代の言語理論研究に広く貢献できる研究成果を挙げることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学支給の個人研究費と学内の研究推進経費(2015年度限り)を使用したため,多少の余裕ができた。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き,必要な資料の購入や,研究成果の発表のための旅費に適宜使用していく予定である。
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