研究課題/領域番号 |
26770203
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
今野 勝幸 静岡理工科大学, 総合情報学部, 講師 (00636970)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | L2自己 / 内発的動機づけ / 外発的動機づけ / 自己調整学習 |
研究実績の概要 |
平成26年度の取り組みとして、L2自己と内発的/外発的動機づけが自己調整学習にどのように関係しているのか、定量的に分析を行った。261名の大学生を対象に、動機づけと自己調整学習の下位尺度を測定するアンケート調査を実施した。動機づけの尺度はKonno (2011a, 2001b)を参考に作成され、L2理想自己 (4項目; α = .77)、L2義務自己 (4項目; α = .73)、内発的動機づけ (3項目; α = .80)、同一視的調整 (3項目; α = .72)、英語学習努力 (4項目; α = .76) の5つの尺度が分析に用いられた。自己調整学習についてはTseng, Dornyei, and Schmitt (2006) を参考に、コミットメントコントロール (5項目; α = .74)、メタ認知コントロール (5項目; α = .74)、感情コントロール (5項目; α = .68)、飽和コントロール (4項目; α = .79)、環境コントロール (5項目; α = .70)の5つ領域における自己調整の尺度を用いた。動機づけ尺度を独立変数、自己調整学習を従属変数とした重回帰分析の結果、英語学習努力が最も強い予測要因である事が明らかとなった。次に予測力が強い要因は内発的動機づけであり、L2理想自己は有意な要因とはならなかった。次に、英語学習努力を従属変数、その他の動機づけ要因を従属変数とした重回帰分析を行ったところ、内発的動機づけとL2理想自己の両者が同程度に努力を予測する結果となった。このことから、普段の学習に密接である自己調整学習行動は、内発的動機づけにより直接関係するが、L2理想自己とは学習努力を介して間接的に関係している可能性が示唆された。つまり、内発的動機づけとL2理想自己を比較した場合、前者の方がより重要な役割を果たすことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究の達成度については概ね良好と言える。26年度に計画していた自己調整学習の作成と実施、及びL2自己との関係性の分析を行う事ができたためである。2年間の研究であるので26年度までに全体の5割を行う事が目標であり、実質的には達成できたが、実感としては4割の達成度であると考える。1つの理由としては、研究結果に想定していたものとは若干異なる部分が見られたためである。具体的には、L2自己は自己調整学習に対して間接的な影響を及ぼすに留まった点である。一方で、内発的動機づけの優位性が際立った形となった。ただし、両者は共に関係し合う動機づけ要因であり、L2自己が持つ日本人英語学習者に対する意味を再考し、再定義する必要性が出てきた事は、本研究が目指すゴールから外れた事ではなく、今後の研究課題としては好都合である。また、取り組むべき課題の追加になるが、これは研究を重ねた末の結果であり、むしろ27年度における質的な研究の意味合いがより高まったと言える。なぜなら、定量的で直線的な関係のみでは捉える事ができない関係性を、26年度の研究結果が示唆していると言えるからである。 2つ目の理由としては、L2自己が英語学習者の学習行動に直接影響を及ぼさないことを踏まえると、別な側面に対してより強い影響を与える可能性を考慮する必要があるからである。まずは理論的には提唱されていても実証されていない事を明らかにすること、そして統計的な分析の観点から扱う変数の数は極力減らした方が望ましいことから、本研究では動機づけの基準変数として自己調整学習に焦点を当てた。L2自己が影響を与える可能性があるその他の要因は、27年度の質的研究において明らかにできる可能性があり、悲観する必要は無いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、26年度の研究結果を踏まえた上で、インタビューによる質的研究を行い、L2自己が日本人英語学習者にとってどんな意味をもたらすのかを改めて掘り下げていく予定である。具体的には、3つの課題がある。1点目は、26年度の研究の結果、L2自己は英語学習行動に直接的な影響を及ぼさない事が明らかになったが、ではどのような側面に影響するのかを明らかにすることである。間接的な関係性とその様相は定量的な分析で明らかにすることは難しいため、質的研究により直線的な関係では表せない様相を明らかにしたい。2点目として、L2自己そのものの性質も明らかにしたい。例えば、L2理想自己とは、将来的な英語使用者としての自己像による動機づけを表すが、将来的とはどの程度の将来を表すのかは定かではない。インタビューのパイロットスタディを既に行っているが、その中で、英語学習の成功者は、限りなく近い将来、しかも職業とは無関係な将来を自己像として持っている可能性が明らかとなった。遠い将来よりも近い将来を志向した方が動機づけが高まる可能性は高いものの、この点も質的な分析から更なる示唆が得られると考えている。3点目は、L2理想自己と、L2義務自己をはじめとしたその他の動機づけ要因の関係性を探ることである。英語の習得が社会的に求められている現在の日本では、L2義務自己の存在が否定できないものの、動機づけへのマイナスの影響が指摘されている。学習者はその2つのL2自己とどう向き合っているのかは、学習を成功に導く動機づけを明らかにする上で、非常に重要である。 まずは、調査対象者を含む集団に対してアンケートを行い、クラスタ分析によって動機づけのプロファイルを明らかにする。各プロファイルのパターンからインタビューの対象者を選び、調査を実施し、データを分析したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に予定していた物品の購入、及び学会に伴う出張やその他の出費については適切に行うことができた。繰り越し金が発生した理由は2つある。1つは、応募していた学会発表の結果発表が遅くなってしまい、他の学会発表を優先せざるを得なくなったことが挙げられる。2点目は、購入を予定していた機器の納期が在庫の問題等で長くなってしまい、他の機器に変更せざるを得なくなった結果、差額が生じてしまった。応募中の次年度の学会等もあり、渡航費、滞在費、及び学会費に大きな費用を要するため、無駄な出費を避け、より有益かつ適切に使用するために、残りの金額を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越した金額は26年度の研究成果を発表するための学会への旅費に使用予定である。具体的には、イギリスのバーミンガムで2015年9月に開催される、British Association of Applied Linguistics (BAAL) Annual Meeting 2015での個人発表が採択され決定したため(タイトル:Factors that motivate Japanese EFL learners' self-regulated behavior)、渡航費、滞在費、及び参加費に当てることとした。また、26年度の研究成果を基にした発表を行うシンポジウムが採択された。これは2015年8月に鹿児島で開催される大学英語教育学会(JACET)国際大会であり、繰り越し分を渡航費等につもりである。どちらの発表も、平成26年度内に応募したものである。
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