本研究は、近年、日本や中国などの大国に従属しつつ「小国」として独自の外交を展開していた近世琉球について、研究が立ち遅れてきた国内制度(とりわけ近世社会の基層をなした身分制度)とそれら諸制度の運用状況に着目し国家運営の解明を試みたものである。 日中双方の異なる支配秩序に整合的に対応していた近世琉球を支えた官僚層を形成していたのは、17世紀末以降制度化され、公的な認可のもとに作成されていた家譜所持を身分指標とする士(サムレ―)層であった。本研究では、家譜を所持するか否かという明確な身分指標のもとに琉球で二大身分制が形成されていたことを確認しつつも、献納によって士籍を与えられた者や王府の必要とした諸技能(庖丁人・医師・海運業者・細工人など)によって士籍を与えられた者が近世中後期以降多数生みだされたこと、また一方で家譜を持ちつつも十分な功績が挙げられずに逼迫し屋取り(寄留して農業を営むもの)する者が数多く存在したことを具体的に検討しつつ、琉球身分制の特質として身分移動が「制度的」に頻繁に発生する「流動的身分状況」が存在したこと、またそれが近世琉球社会の展開に大きな影響を与えていたことを明らかにした。また、「流動的身分状況」の展開は、近世琉球の国家運営においては「国用」(国家の益)に叶う柔軟な人材確保に作用し、それが複雑な国際環境に置かれた近世琉球の外交・内政の整合的かつ十全な展開を支える役割を果たしていたことを明らかにした。 研究課題の達成にあたっては、年に数回の報告会(琉球身分制研究報告会、期間内で五回開催)を実施し最新の知見を集約するとともに、広範な領域(とりわけ考古学や民俗学、人類学など)で応用可能な理論構築や歴史的な実態の把握などに努め、一定の成果を得た。
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