研究課題/領域番号 |
26770213
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 陽一 東北大学, 東北アジア研究センター, 助教 (40568466)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 旅 / 近世 / 風景 / 紀行文 / 道中日記 / 観光 / 自然景観 / 史跡 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本近世における旅行者の記録(道中日記・紀行文)の分析から、当該期の旅の歴史的特質を解明することにある。前近代の旅に関しては、これまで寺社参詣や温泉巡りを対象に研究が重ねられてきたが、本研究では自然景観や史跡を巡る旅を対象とし、旅行者の意識面の分析を基に旅の特質にアプローチすることを目標に掲げている。 歴史研究を遂行する上で重要かつ不可欠な作業は史料調査であり、特に近世史をテーマとする場合は、未見の新史料の発掘が研究の価値を飛躍的に高める。本研究で分析対象とするのは、近世の旅行者が著した紀行文や道中日記であり、前採択の科研においては当該史料のリストアップと収集を重点的に行ってきた。本年度もそれを継続し、関東方面の史料保存機関で収集作業を実施しつつ、並行して収集史料の解析作業も行った。 作業において特に注目したのは松島での旅行者の行動である。近世より日本三景の一つに数えられ、日本有数の自然景観と史跡を内包する松島は当時から旅のメッカとして定着していた。史料分析の結果、そこでの旅行者の行動は知識人と庶民で大きく異なっていることが明らかになった。知識人は過去の松島、すなわち歌枕や霊場として知られていた松島に憧れ、その痕跡を求めて松島を訪れており、松尾芭蕉関連をはじめとする近世に建立された句碑が並ぶ変わり果てた現地の姿に落胆と失望感を覚えていた。一方、庶民は松島の自然景観をそのままに受け入れて感動体験に浸っていた。こうした意識の相違の背景は両者に備わっている教養の差にあると考えられる。知識人の旅はいわば追憶の旅といえる性格を備えており、庶民の感動体験は「観光」体験といいうるものであったとみられる。 自然景観や史跡をめぐる旅への着眼が少ない中、その検証から旅の性格の一端を読み取った意義は大きい。上記のうち、知識人の旅については論文として発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歴史研究、特に近世史研究においては、課題を追及しうる良質の史料に巡り合えるかどうかが成果の質を左右する。この点、本研究の遂行に当たっては、前採択の科研で研究対象となる史料がどこにあるかをリストアップしており、その結果、求めていた東北地方を旅した紀行文・道中日記が多く所蔵されている機関がら順次調査を実施することができた。収集した史料には、従来の研究では全く参照されていないものも多数含まれている。 史料の解析に際しては、まず年代や行先、ルートを入力した旅のデータベースを作成するが、これも前科研時から少しずつ取り組んでいたので、スムーズに作成することができた。また、分析対象とした松島は研究代表者の所属機関から日帰り圏内にあり、史料以外の関連文献を集めることも、実地見分を行うことも比較的容易であった。 以上の結果、助成機関の一年目より成果を研究報告として口頭発表し、論文としてもまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、成果として最終年度に著書の刊行を検討している。2年目となる平成27年度は、その準備となる研究史の整理や論文の執筆に時間を割きたいと考えている。 これまで実施してきた史料調査については、時間に余裕がある限り継続していくが、前年度よりは回数を減らしたい。 一方、研究史の読み込みには重点を置く。近世の先行業績に関してはおよそ把握できているが、古代・中世や隣接する観光諸学の文献にも目を通し、幅広い視点を獲得しながら研究の意義を明確にしていきたい。論文執筆は、前年度で分析が終了している松島旅行における庶民の観光体験を原稿化することをまず優先する。また、史料の解析はペースを落としながらも続けていき、研究の土台となる旅のデータベースを著書に盛り込めるよう整理していく。 旅、とりわけ観光に対する市民の関心は一般に高く、事例が近世であっても成果への需要はそれなりにあると予想される。研究成果がある程度まとまった段階で、市民向けの講座等でわかりやすく発信していくようにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
史料のリストアップ作業、および各史料保存機関での調査が予定より順調に進み、現時点で研究論文として発表できるだけの史料を概ね入手することができたため、旅費や人件費・謝金に余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は研究成果をまとめる足がかりの年にしたいと考えている。史料調査は数を減らし、必要に応じて実施する。研究史を整理に必要な書籍の購入や取り寄せに重点を移して経費を使用していく予定である。
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