当研究の目的は、日本近世における旅行者の記録(道中日記・紀行文)の分析から、当該期の旅の歴史的特質を解明することであった。研究期間前半では上記記録の収集、後半ではその分析と先行研究の整理に重点を置いた。一般庶民の旅の全体的な行程と旅先での行動の解析から、従来強調されてきた観光に対し、実際の旅の性質には信仰的側面が濃厚に備わっていることを明らかにした。一方、同様の解析から、知識人層は過去にとらわれる「追憶の旅」を行っていたことが判明した。 以上の検証結果から、近世の旅の特質はその性質的な多様性にあるという結論が得られた。この結論を盛り込んだ成果として、著書を出版することができた。
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