研究課題/領域番号 |
26770219
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
上田 長生 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (10599369)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 近世天皇 / 近世朝廷 / 泉涌寺 / 葬送・法事 / 先祖祭祀 / 御一会 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、宮内庁書陵部が所蔵する公家日記・記録から、江戸時代の天皇・皇族の葬送・法事に関する史料を引き続き収集した。宮内庁書陵部には膨大な公家日記が所蔵されており、その中の関係史料の抽出は今後の課題であるが、「凶事記」「凶事留」のような一件記録類は概ね収集することができた。次年度以降、日記の抽出作業を進め、上記の一件記録を補完し、分析を深めていく予定である。 一方、江戸時代の天皇・女院を葬った泉涌寺(京都市東山区)の所蔵文書についても調査・収集を進めた。27年度は、特に後水尾院・東福門院など近世前期の事例から悉皆的な撮影を行い、相当の史料を収集できた。次年度前半には、残りのほとんどを収集し、より分析を深めていきたい。なお、27年度には、泉涌寺塔頭の雲龍院文書も新たに公開され、閲覧できた。ここにも皇族の葬送・法事関係史料が豊富に含まれている。泉涌寺・雲龍院の文書からは、幕府・朝廷・泉涌寺の三者で、葬送・法事について認識の齟齬や、相互の駆け引きも垣間見られ、政治史的な論点を提起できる見通しである。また、泉涌寺領地村々や町人との関係が分かる史料も見いだしており、葬送・法事の社会的位置づけを明確化しうるものと予想している。次年度も引き続いて調査を進め、近世天皇・皇族の葬送・法事の展開について通時的で体系的な像を描き出していく。 かかる研究成果をふまえ、27年度は、泉涌寺を含む陵墓の変容を解明した「陵墓を「発見」した人々―考証家と陵墓治定の実態―」を執筆し、共著『古代史研究の最前線 天皇陵』(洋泉社、2016年1月)に掲載された。さらに同様の問題について、世界遺産との関わりを検討した「だれが陵墓を決めたのか? ―幕末・明治期の陵墓考証の実態―」を執筆し、『世界遺産と陵墓を考える』(思文閣出版、2016年)に掲載される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
宮内庁書陵部の所蔵史料の収集に努め、一件記録にまとめられた葬送・法事関係の史料は概ね閲覧し、次年度でほぼ全てを収集可能である。同部所蔵の公家日記に含まれる関係記事の抽出も進めることで、朝廷側からみた天皇葬送・法事に関するアウトラインは把握が可能となると見通している。次年度も、引き続き、膨大な史料を効率的に収集できるよう計画している。 並行して進めている近世天皇家の菩提寺泉涌寺の文書のうち、天皇・女院の葬送・法事に関する文書は予想以上に収集できた。次年度前半には、残りの部分のほとんどを収集し終え、分析を行っていきたい。また、泉涌寺塔頭の雲龍院の新たに公開された文書も膨大で、その収集・分析でより豊かな成果が見込まれる。それらの調査・収集によって、これまであまり研究がみられなかった天皇・皇族の葬送・法事の実態について、次年度以降に論文化できる見通しを得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、引き続き、宮内庁書陵部・泉涌寺の史料調査・収集を進め、近世天皇・皇族の葬送・法事について、体系的な分析を可能とするだけの基礎的調査を完了したい。平成27年度の達成度にも記した通り、最も基本となる宮内庁書陵部と泉涌寺での調査・分析では予想以上の成果を得たが、都市京都や京郊村々側の史料の収集・分析は不十分であった。従って、そうした側面からの調査・分析を進めることで、より多面的な補強を行っていく。 収集できた史料は膨大で、次年度もさらに豊富化できることは確実であるが、膨大であるがゆえに、その整理・分析には困難も予想される。従って、基軸となる事例の集中的な分析と他事例との比較、中核となる史料の選択・分析を行うことで、効率的な研究遂行に努めていきたい。
|