平成28年度は、主として国立公文書館が所蔵する公家日記・記録から東福門院をはじめとする主要皇族や天皇の葬送・年忌法要に関する史料を収集した。一方、前年度までに撮影・収集した泉涌寺(京都市東山区)の所蔵文書のデータ整理と、同じくこれまでマイクロ撮影で収集した宮内庁書陵部所蔵資料のデータ化・整理を進めた。3年間の調査を通じて、泉涌寺文書については、数千点におよび近世天皇の葬送・法事関係文書は全て撮影を終え、后妃関係の収集にもとりかかっている。なお、調査中に泉涌寺塔頭雲龍院から、近世の皇子・皇女の葬送・法事関係文書や日記類が大量に発見され、一部を撮影・収集した。今後これらも合わせて調査・分析することで、近世天皇家の先祖祭祀についてより体系的・総合的な研究が可能となると見通している。また、宮内庁書陵部所蔵の記録類も概ね撮影・収集を終えた。 なお、平成28年度は、泉涌寺や宮内庁書陵部宮内公文書館が所蔵する史料などをもとに、「だれが陵墓を決めたのか?―幕末・明治期の陵墓考証の実態―」(『世界遺産と天皇陵古墳を問う』思文閣出版、2017年1月)を公表した。また、京都大学人文科学研究所研究班「近代天皇制と社会」での報告(2016年12月17日)をもとに、幕末以来の陵墓祭祀の展開を踏まえて、明治以降の皇霊・陵墓祭祀の展開過程を解明した「明治前期の陵墓・皇霊祭祀の特質」を執筆し、29年度中には高木博志編『近代天皇制と社会』(思文閣出版)に掲載・刊行されることが決定している。引き続き、収集・整理した史料の分析を進め、近世天皇・皇族の葬送儀礼・先祖祭祀の実態を変容を解明した論文を公表する予定である。
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