研究課題/領域番号 |
26770227
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
林 英一 慶應義塾大学, 総合政策学部, 特別研究員(PD) (20724206)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 残留日本兵 / 小野田寛郎 / 横井庄一 / 戦争体験 / アジア認識 |
研究実績の概要 |
小野田寛郎と横井庄一という戦後日本社会のなかでもっとも大きな注目を集めた残留日本兵二人に関する言説を広く収集した。その上で、他の大勢の残留日本兵たちと異なり、なぜ二人がそれほどまでに大きな脚光を浴びたのかを考察した。 その結果、背景には、1970年代という同時代状況のなかで、日本人の戦争体験の断絶とアジア認識の連続が大きく関わっているということが明らかとなった。すなわち、対外関係、経済成長、戦後教育世代の台頭によって、戦後の日本人の価値観が変化したことが、二人への好奇なまなざしへとつながっていた。しかしその一方で、アジアを「野蛮」とみなすような日本人のアジアに対する帝国意識は連続していた。 総じて二人の残留日本兵が注目されたのは、冷戦下で経済成長を遂げた日本社会における戦争の記憶の変遷の通過点という特殊な条件が影響しており、それらの反応をみることで、戦後の日本社会の断絶と連続を同時に捉えることができた。 上記のような視点を踏まえ、「小野田寛郎と横井庄一―豊かな社会に出現した日本兵―」という論文を執筆した。この論文は編集作業を経て、岩波書店の『岩波シリーズ ひとびとの精神史』の第6巻目の一章として、2015年に発表される予定である。 また『週刊新発見!日本の歴史』(2014年5月18日号)、『歴史街道』(2014年9月号)、『東京新聞』(2014年8月16日付朝刊オピニオン面)、『じゃかるた新聞』(2014年8月26日)、『読売新聞』(2015年3月16日付夕刊社会面)紙上にて、残留日本兵に対する自身の見解を述べた。 さらに2015年に吉川弘文館から刊行予定の『アジア・太平洋戦争辞典』の残留日本兵に関する項目について執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標のうち、国内外で収集した残留日本兵に関する資史料を整理することについては、一定のめどがついた。一方、インドネシア残留日本兵の家族史、地域史のなかでの役割を明らかにすることについては、従来の研究以上の成果は得られなかったが、上記の資料整理を行ったことで、小野田寛郎と横井庄一については新たな材料をみつけ、従来と異なる視点を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、平成27年度からは対象地域を広げた研究を行う。すでに台湾とベトナムを研究対象とする研究者より、残留日本兵に関する有力な情報を得ているので、まずは台湾とベトナムの事例を掘り下げたい。その上で、これまで取り組んできたインドネシアの事例と比較することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外で文献収集、フィールドワークを行うことを予定していた。しかし論文執筆の依頼を受け、その内容に関連した文献調査を先に行うことにしたところ、主に国内の資料館を使用することになり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ベトナム、台湾、インドネシア等の海外や国内でフィールドワークにかかる旅費や研究会を行う際の諸経費に使用する予定である。
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