今年度は国内外での現地調査を積極的に実施し、当初の研究目的のうち進捗が遅れていた残留日本兵とその家族の実像解明を行うことができた。そして、その結果としてつぎのような研究成果を挙げることができた。 第一に、東京都と宮城県でタイとベトナムの残留日本兵家族へのインタビューを行うことに成功した。両者は残留日本兵であった父とともに高度成長期の日本社会を生きたという共通体験があり、その体験を小説や写真などの形で発表していた。ふたりの語りを通じて、戦後日本を生きた残留日本兵家族の小さな歴史を再構成することができた。 第二に、インドネシアとベトナムに残留した台湾人日本兵の事例研究について、京都大学東南アジア地域研究研究所東南アジア研究の国際共同研究拠点「ミクロヒストリーから照射する越境・葛藤と共生の動態に関する比較研究」研究会の場で報告し、参加した地域研究者たちから有意義なアドバイスを得ることができた。そしてそれを基にして、論文「東南アジア残留台湾人日本兵のミクロヒストリー」を執筆した。 第三に、アメリカから来日した研究者と、残留日本兵の故・横井庄一氏を中心に残留日本兵についての意見交換を行い、有意義な情報とアドバイスを得ることができた。 なお、残留日本兵とその家族の虚像についても、図書館・研究機関での文献調査、資料収集によって得られた情報を精査していくことによって、新たな知見を得ることができた。
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