研究課題/領域番号 |
26770233
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
田口 由香 大島商船高等専門学校, その他部局等, 准教授 (00390500)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 日本史 / 近現代史 / 明治維新史 / 日英関係史 / 長州藩 / イギリス |
研究実績の概要 |
平成26年度に実施した研究の成果としては、1864年(元治元年)の下関戦争前後における長州藩とイギリスとの関係を明らかにしたことである。本研究の目的は、日本側の史料とイギリス側の史料を照らし合わせ、比較して分析することで幕末期における国際関係を実証的に解明することである。第一段階として、1863年(文久3年)の長州藩による攘夷決行から1864年の英仏蘭米四国連合艦隊による下関戦争までを対象に、イギリスの外交政策とそれを背景とした長州藩の対外政策の解明に取り組んだ。また、1865年(慶応元年)に持ち上がった下関開港問題との関わりを検討した。 本研究の具体的内容として次の点を明らかにした。まず、イギリスの外交政策では、自由貿易帝国主義を主張した外務大臣パーマストンやラッセルが、日本を「非公式帝国」(自由貿易による間接支配)として位置づけていたこと。そして、後進国に対する市場開拓の不可避な段階として軍事力を誇示し、条約による平和的関係(貿易)を維持するために下関戦争を実行したこと。イギリスの外交政策を背景に、長州藩は「国体」(武威によって築いた国の基)を立てるため、一旦攘夷の後に積極的に開国する「奉勅攘夷」の対外政策をとったこと。それは対外的危機への対応であり、通商条約締結による「国体の汚損」の挽回には勝敗にかかわらず攘夷を必要としたことである。 本研究の成果の意義としては、双方の史料を比較分析することで、下関戦争におけるイギリスと長州藩の対外政策が明らかになったことである。また、本研究成果の重要性としては、イギリスが下関戦争を契機として下関開港を要求したことは、幕府との通商条約を維持しながら、幕府の貿易独占廃止や諸大名との貿易開始による自由貿易拡大を意味していたことを明らかにしたことである。今後は、イギリスの政策が後の長州藩との関係にどのように影響したのかを明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の達成度について、概ね順調に進展していると言える。本研究では、幕末期における国際関係を実証的に解明するため、日本側の史料とイギリス側の史料を照らし合わせ、比較して分析する。本研究期間は3年であり、1年目の平成26年度は、第一段階として1864年(元治元年)の下関戦争前後における長州藩の対外政策とイギリスの関係を解明するため史料分析を行った。 史料調査も順調に進展している。平成26年度は、日本国内とイギリス国内の調査を行うことで比較対照となる史料の所蔵状況を確認した。日本国内の史料調査は山口県文書館を中心に行い、同館所蔵の毛利家文庫「文久三年以後攘夷一件」などを収集分析した。イギリス国内の史料調査は英国公文書館を中心に行い、同館所蔵のイギリス議会議事録“HANSARD’S PALIAMENTARY DEBATES, THIRD SERIES, VOL.CLXXVII(177) ”、イギリス駐日公使オールコックの覚書(“Memorandum on Foreign Policy in Japan”)を収集分析した。また、国内では広島大学大学院の三宅紹宣教授、イギリスではケンブリッジ大学のピーター・コーニッキー教授に助言をいただいた。 また、これまでの研究成果は、研究論文の他に、国内学会では「幕末期長州藩の対外政策」(広島史学研究大会日本史部会)、国際学会では“The Interest of Britain in the Trade with Japanese Feudal Lords at the End of the Edo Period”(13th Annual Hawaii International Conference on Art & Humanities)を発表し、国内外の様々な視点から意見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の研究の推進方策としては、幕末期の長州藩とイギリスの関係を段階的に検討するため、対象期間を三段階に設定して史料分析を行う。2年目となる平成27年度は、第二段階として1865年(慶応元年)の第二次長州出兵における長州藩とイギリスの関係を検討する。長州出兵に対して長州藩が抗幕体制に転換するなか、イギリスとの直接的な関わりがみられるようになるため、双方の史料を分析することでその関係を解明する。そして、最終年となる平成28年度は、第三段階として1866年(慶応2年)の幕長戦争を対象とし、幕府と長州藩との対立が明確化するなか、イギリスと長州藩、また幕府との関係がどのように推移するのかを検討する。 1年目の平成26年度は、第一段階として1864年(元治元年)の下関戦争前後における長州藩の対外政策とイギリスの関係を検討し、自由貿易帝国主義をとるイギリスが、下関戦争を契機として幕府の貿易独占廃止や諸大名との貿易開始によって自由貿易を拡大しようとしたことを明らかにした。幕末期における国際関係において、諸外国が諸大名の貿易参加を実現させようとしたのか、諸大名がその実現に動いたのかを明らかにすることは、諸外国と幕府・諸大名との関係を解明する上で重要な課題と考える。よって、幕府との対立を深める長州藩とイギリスとの関係の推移を、双方の史料を比較して分析することで実証的に明らかにする。今後の史料調査としては、日本国内とイギリス国内の史料調査を継続して行う。イギリス国内では、英国公文書館においてイギリス駐日代理公使ウィンチェスターの報告書などを含む外務省文書(FO410/10他)、ケンブリッジ大学図書館において駐日公使パークス宛書簡を含む「パークス文書」の調査を行う。日本国内では、おもに山口県文書館において第二次長州出兵段階の長州藩史料(毛利家文庫「部寄」など)を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の経費のうち次年度使用額が生じた理由としては、昨年度までの事前調査をふまえてイギリスでの史料調査を行い、出張期間を短くすることができたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、英国公文書館において新たな史料を開拓するため、現地での調査期間を長めにとる必要があるが、平成27年度の直接経費の配分が前年度より10万円少ない。よって、平成26年度次年度使用額の約9万円を補完し、イギリス出張旅費に使用することを計画している。
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