研究実績の概要 |
今年度は、研究計画どおり、清朝の対外政策と国内政治・経済の連関についての検討と、成果の公表を行った。 平成29年5月には、歴史学研究会2017年度大会全体会において、「清朝・ベトナム国境と越境する海賊」と題して報告を行い、その内容を『歴史学研究』963号に掲載した。12月に刊行された「《御製安南記》与《御製十全記》之間」(『中国辺疆学』8)では、「十全記」に描かれる勝利は執筆者本人である乾隆帝も、内実がないある種の宣伝にすぎないと意識していたことを指摘した。30年3月に刊行された村上衛との共著"The Suppression of Pirates in the China Seas by the Naval Forces of China, Macao, and Britain (1780-1860)," in Ota, Atsushi ed., In the name of the battle against piracy, Leiden: Brill, 2018では、対中貿易に関与し利害を共有する清朝とヨーロッパ勢力はしばしば協調行動をとっていたことを指摘した。3月に刊行された相原佳之・村上正和・李侑儒との共著「嘉慶研究序説(1)」(『環日本海研究年報』23)では1799年に清朝皇帝名義で発出された指示(「上諭」)をもとに、当該時期の政策変動についてアウトラインを示した。 4年間の補助期間で、清朝の対欧米貿易をめぐる国際関係とともに、その清朝の社会経済への影響の多寡について検討した結果、アヘン取引を含む対欧米貿易収支は必ずしも当時の清朝経済に強い影響を与えておらず、両者の関係を前提とする19世紀前半の清朝の政策は、むしろ長江下流域の漢族の経済的利害が清朝の政策決定に強い影響を与えていたことを証左するものであることを指摘できた。
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