研究実績の概要 |
当初計画に則り「里耶秦簡の古文書学的研究I」との題目で研究を進めた。これは、秦代の行政文書たる里耶秦簡の性格を確実に把握するための基礎研究である。里耶秦簡の出土遺址が秦代遷陵県であったことは既に共通認識となったが、遺址を大雑把に「県」と捉えるのみでは不十分である。簡牘の大部分はJ1と称される井戸より出土しており、これは県内でも特定の官府、すなわち「県廷」が使用していた井戸であった。この県廷と県内の諸他の部署との区別およびそれらの関係が、秦代地方行政を考えるうえで極めて重要となる。これについてはかつて県廷が県内各部署に対して絶対優位となるような制度設計が存在したことを指摘したが、その後J1出土簡の公開が一挙に進んだため、再検討の必要が生じ、そこで2014年5月に「里耶秦簡所見的秦代文書行政」(「中国中古的政治与制度」国際学会、於北京)として発表し、これをもとに論文「里耶秦簡にみる秦代県下の官制構造」(『東洋史研究』73-4、2015年3月)を公表、「遷陵県廷」の性格を明らかにした。 同時に秦簡所見の文書用語の検討をも進め、その成果は「秦代 "恒書" 考」(「中国法律史:史料与方法」国際学会、於広州)として発表した。また戦国・秦・漢の文書制度の変化を論じた Relaying and Copying Documents in the Warring States, Qin, and Han Periods. (Nagata Tomoyuki ed., Documents and Writing Materials in East Asia, Dec., 2014) 、および漢代木簡が行政文書として権威を持つに至る過程をまとめた一般向け書籍『木簡と中国古代』(研文出版、2015年2月)を公刊した。これらは次年度以降の課題である戦国・秦・漢を展望した文書行政研究に着手したものである。
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