研究計画の最終年度にあたる本年度は、昨年度に引き続き、戦国~漢代に至る出土簡牘の検討を進め、中国古代の文書行政制度に関わる基礎的・応用的な研究成果を得ることができた。 まず基礎研究部分での成果として、秦代の出土木簡である「里耶秦簡」の綴合例を発見した。断片的なかたちで出土する木簡を完全な簡に復元するという基礎的研究は、中国では盛んに行われているものの、日本からこれを提示できた事例は少ない。この成果は武漢大学による出土文献研究の代表的なウェブサイトである『簡帛網』に掲載された(「里耶秦簡8-739+8-42+8-55綴合」『簡帛網』2017年9月15日http://www.bsm.org.cn/show_article.php?id=2886)。 応用的な部分では主に次の二点の成果を得た。(1)中国古代においては、徹底した文書行政によって遠隔地支配を実現していたが、その現場では文書だけでなく人間自身が移動することもまた要請されていた。各種の官署から官吏が派遣され移動することで、「点」の支配は「面」の支配へと変質する。そうした面的支配の実態について秦漢の簡牘史料をもとに明らかにした。この成果は中国人民大学(北京)主催の国際学会において口頭発表し、その成果を含んだ論文集が2018年度に出版される予定である。 (2)岳麓秦簡にみえる「執法」というこれまでほとんど未知であった官職について引き続き検討した。昨年度も初歩的な検討を行ってはいたが、「執法」の監察官としての意義、漢代との比較という観点からより大きな歴史的文脈に位置づけるという点で大幅に増補をおこなった。この成果は湖南大学岳麓書院(当該簡牘の所蔵機関でもある)で開催された国際学会において口頭発表し、さらに文章化したものが『東方学報』京都に掲載された。
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