研究課題/領域番号 |
26770243
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡田 雅志 大阪大学, 文学研究科, 助教 (30638656)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タイ族 / 移住 / アイデンティティ / ベトナム / タイ / 山地民 / 越境 / メディア |
研究実績の概要 |
初年度は、予定されていたタイ族の移住史の再構築(ベトナムからタイへの移住経緯及びルートの解明)と移住記憶のアイデンティティ・リソースとしての利用実態の解明にかかる調査・研究を実施した。 8~9月にかけて調査によるデータ収集を実施した。移住史再構築については、ベトナム・ハノイの国家第一公文書館において、行政文書資料を調査したほか、タイ・バンコクの国立公文書館において地方長官や軍司令官からの報告書(バイ・ボック)を調査し、18世紀末から20世紀前半にかけてのタイ族の移住及び送り手側の社会動態に関する重要なデータを集積することができた。また、移住記憶の問題については、タイ・ナコンパトム県ドントゥム集落においてタイ族の移住伝承及び葬送儀礼文書(ボックターン)を収集し、現在の移住民社会における移住史とアイデンティティの関係を明らかにするための重要な情報を得るという成果があった。加えて、他地域の資料保存状況に関する情報を収集し、次の調査地選定につながる成果も得られた。 成果発信として、4月に、タイ族社会の流動化とも深く関係する肉桂の生産・輸出と世界経済とのつながりを論じる発表を行った。農学等理系研究者の多い研究会であり、モノとヒトの移動の相関を明らかにする上での貴重な議論ができた。また、10月には、タイ王国による強制移住の結果成立した黒タイを自認する集団のアイデンティティ形成について、これまでの研究成果の一部を一般向けにまとめた『越境するアイデンティティ』(風響社)が刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題申請後に決まった人事異動により本研究課題のエフォートが一定程度低下したが、初年度の目的である、文献史料の分析を中心とするベトナムからタイへの移住史の再構築と、現地調査に基づく移住記憶を利用したアイデンティティ形成の解明については十分なデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況をふまえ、昨年度収集データの分析を継続すると同時に、当初の予定通り、インドシナ戦争を契機とするグローバルなタイ族の移動及びアイデンティティ動態に関わる研究に進んでゆく。研究手法はこれまで同様、文献調査と臨地調査を組み合わせたもので、エクサンプロヴァンスの海外文書センター(Centre des Archives d'Outre-Mer)及びパリの国防省軍事史料館(Service Historique de la Defense)における文書資料に基づく移住史の再構成に加えて、パリ郊外及びアルルのタイ族難民コミュニティにおける聞き取り調査を行い、タイ族コミュニティのグローバル化がタイ族アイデンティティにどのような影響をもたらしたのかを検討してゆく。
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