本研究は、北インド、バフライチにある聖者廟Salar Mas`ud Dargahを対象とし、主に英領インド時代の文書を用いた歴史学・文献学の手法と、聖者廟の運営関係者への聞き取り調査を併用している。 Salar Mas`ud Dargahの特徴は、ムスリムの殉教者を崇敬対象としているが、伝説や儀礼に土着の慣習との混交が強く見られる点や、参詣者に多くのヒンドゥー教徒が含まれる点である。研究の結果、そのような混交的なあり方に関与しない前近代の運営形態が、英領インド政府の干渉によって、ムスリム主体かつ形式的にはイスラームの理念に則ったものとして再編されていく経緯が明らかになった。
|