先塋碑の分析により、本研究は次のような、当該時期華北における宗族のあり方の諸相を明らかにした。すなわち、在地有力者層の顔ぶれは変わったものの、大部分の婚姻は地域内で行われ、複数の傍系親族を取り込んだ大規模宗族に発展することはなかった。モンゴル支配下においては、「根脚」の原則により、モンゴルとの世代を越えた主従関係の維持が、家系の政治的地位を維持する関鍵であった。このため、最も政治的に成功した諸家系では、同様な政治力を持つ同僚の家系と、地域を越えて婚姻関係を取り結ぶことがあった。しかし、この場合でも、根脚の恩恵を受けない族人たちは、同一地域内での婚姻関係の維持に終始した。
|