今年度は、本科研の最終年度に当たるため、これまでの研究成果のとりまとめを行なったほか、今後の研究の進展に向けて、アルジェリアでの現地調査も実施した。 まず、本研究課題の成果をいち早く公表するために、「北アフリカにおけるローマ皇帝礼拝の展開:カルタゴとその周辺都市を中心に」と題した論文を、年度末刊行の『滋賀大学教育学部紀要』67号に寄稿した。そこでは、アウグストゥス治世、再建されたばかりのローマ市民植民市カルタゴにおいて恐らく外来者によってはじめられた皇帝礼拝が、カルタゴの付属地とされた集落を有する諸都市を中心に、次第に先住民によって受容されていった様子を明らかにした。その過程で、従来、ウェスパシアヌス帝の治世に属州単位での皇帝礼拝が確立された根拠とされてきた碑文を、2世紀後半に先住民の間で皇帝礼拝が広がっていったプロセスを示すものとして位置づけ直し、北アフリカにおける「ローマ人」意識の生成過程を明らかにした。 また、関連するその他のテーマに関する論文も作成を進めており、近いうちに公刊できるよう努めている。 この他、治安上の問題から延期していた北アフリカでの現地調査を実施した。アルジェリアにおいては、ローマ市民の植民市であったクイクル(現ジェミラ)やタムガディ(現ティムガド)、軍団基地の置かれていたランバエシス、マウレタニア王国の都であったカエサレア(現シェルシェル)等の遺跡を訪れ、史料となる碑文の出土状況や現況を確認した。この調査の成果は、現在準備中の論文でも活かされているほか、新年度以降の研究課題の進展のためにも有意義なものであった。
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