研究課題/領域番号 |
26770255
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
水田 大紀 佛教大学, 歴史学部, 准教授 (40632328)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イギリス / 官僚制度 / 逓信省 / 女性 |
研究実績の概要 |
2015年度は新任1年目であったため、研究体制の確立がまずは優先事項となった。そのため、年度の前半において研究活動を十分に行うことができなかったが、夏季休業中に実施したロンドンでの史料調査より、ようやく実質的に研究を再開することができた。同調査では特に、Royal Mail Archives に所蔵されている、Blackfriars (1880年代)、および Saint Martin's-le-Grand (1890年代~) の記事を収集した。これらの書誌は19世紀後半の逓信省官吏により発行された同人誌であり、郵便ネットワークを通じてイギリス国内はもちろん、植民地で勤務する郵便局職員にも読者や投稿者を獲得しており、当時の官僚制度下に組織された公職員の日常的な意識を分析するのに適している。 また今回の調査では、逓信省職員録(地方郵便局含む)にあたる List of Officers of the General Post Offices の複数年分を採録し、各個人レベルの情報(昇給条件や特別手当、勤務年数など)を踏まえた、当時の逓信省の組織構造を復元した。その結果、官僚制度改革が本格化する以前(1873年)において、同省内の各課局においてすら職位や昇進条件が統一されておらず、経験主義的、ないしは場当たり的に積み上げられた、複雑な組織形態を通じて業務が遂行されていたことが明らかになった。 また先年度からの継続の部分では、同時代の女性官吏の就労実態を俯瞰するための作業を行った。女性雇用機会促進協会の機関誌『イングリッシュウーマンズ・レヴュー』誌の記事より、女性事務職員の訓練や職業紹介の状況に加えて、女性雇用に関する言説や評価の変化を確認し、先述の逓信省の組織構造の中で、女性官吏がどのような職位や位置づけで雇用されていたかを検討した。さらに国内にある関連史料(マイクロフィルム: Observer 紙、および Police Gazette 誌)の収集も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも述べたように、就職とそれに伴う本務校の変更により、研究環境を再構築せねばならず、また新しい業務や教育体制への適応にある程度の時間を割かねばならなかった。そのため研究スケジュールの進行は、若干ではあれ遅れ気味になったといえる。しかしその一方で、調査対象の日常的な価値観に迫りうる史資料を発見できたことで、申請時の想定よりも、より広がりを持った研究に進展しつつある [研究計画では「Ⅱ. 改革を助長した社会思想についての比較史的分析」に該当]。ゆえに計画全体としてみれば、二年目の状況として一定の成果を残すことができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず2015年度に得られた研究成果を投稿論文等として発表し、最終年度の計画内容と併せて研究目的の完遂を目指す。特に最終年度は既存の研究成果に加え、各国政府からの情報フィードバックも含めて官僚制度改革の全体像を検討し、イギリス側の官僚たちの改革体験と、それによる意識の変化から、「近代化」の伝播の諸相を捉えたい。また以前、National Archives で調査を行った際、行方が分からなくなっていた史料(FO 881/6728X)が2016年1月に発見されたとの報告を同文書館員より受けたので、今夏は上述の Royal Mail Archives と National Archives での調査を行い、史料の拡充を図る予定である。加えて、「研究実績の概要」で取り上げた逓信省職員向け同人誌の分析も、「自助」の概念や実践についての記事を中心に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
為替相場の変動に起因して旅費負担が計上した以上のものとなったため、2015年度は書籍の購入をかなり控え、代わりにマイクロフィルムの資料化に努めたことで、結果的に当初の計算に変更が生じ次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度も夏期に海外での史料調査を予定しているが、2015年度同様、旅費負担が増額する可能性が高いため、次年度使用額は全て、旅費の追加費用分として活用する予定である。
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