本研究の課題は、キリスト教修道制が中世世俗社会の形成・発展にとって本質的な役割を担っていたという認識に基づき、中世盛期から後期のシトー会修道院と教区=村落共同体の間で行われたコミュニケーションの実態を分析し、両者の相互影響関係を明らかにするというものである。
昨年の研究成果を踏まえて引き続き研究を進めた平成28年度の研究実績は以下の通りである。 1、研究計画に記した独仏国境地域のほか、ライン地方、フランケン地方、ブラウンシュヴァイク地方、ザクセン地方といったゲルマン語圏に加え、南フランスやイングランドのシトー会修道院に関する一次史料・研究文献を網羅的に収集する努力をし、分析作業を進めた。 2、分析の結果、昨年度までに明らかになった諸点に関する認識が深められたほか、①シトー会修道院の所領では、修道院から送られてくる助修士に加えて周辺地域から農民らが流入してきたことが想定され、彼らの司牧が修道院で問題になっていたこと、②一部のシトー会修道院で、13世紀末になると修道士によって積極的に修道院内で司牧が行われるようになったこと、③托鉢修道院と利害が交錯することはほぼなかったこと、などが明らかになった。 3、修道院による教会パトロナートゥス受領と小教区教会への関与について、北ドイツやイングランドなどのようにこれが観察されない地域もあるという認識が得られた。このことから、今後の課題として、西欧・中欧規模で地域的偏差が生じる背景を追究する必要がある。
|